12.道中

「よーし、準備いいか!カコ!」


「は、はい!」

私はバイクの後部座席に慣れないように座っていた。


大型のバイクのようで、カラーリングはグレーとメタリックブルー。

シェフ曰く、アオビカリイナズマ号(略称:アオズマ号)というらしい。半地下にあるダイナーの丁度上のフロアに置いてあったアオズマ号はカオス現象の地震のなかも無事に生き残っていた。


「シェフ!安全運転でお願いしますよ」

マスターは声をかける。


「おう!まかせとけ!」

そういいながらもシェフは大きな音を鳴らした。


「よし、オッケー!!」

「カコ、つかまってろよ!」


「わっ!」

アオズマ号が動き出すとともに、私はギュッとシェフの服を掴む。


そのまま大きく加速していき、軌道に乗ったのか安定していった。

バイク、それも二人乗りなんて、初めての経験だった。


風が気持ちいい。

しばらく私は無言で、ただシェフの背中につかまっていた。


今向かっているのは機世界の首都ミキーネで、料理店からは乗り物を使って40分くらいのところにあるらしい。シェフとマスターの料理店はミキーネ郊外の少し賑やかな繁華街ヨンゲンにある。


ビルが雑多に立ち並ぶヨンゲンを北の方に抜けていく。シェフは道のガレキや狭い階段などをつかまってろよ、と軽快にピョンピョンと超えていった。不思議に乗り心地はよく、普通のバイクではないのだろう。


「おう、スレイのガキじゃねぇか!お前んとこの店大丈夫なんかー?」

「キャディ!後ロノ子誰ダ?」

あちこちから、機世界人、魔世界人がシェフに声をかけて、それにシェフは軽口で返す。


しばらくすると道が広くなり、ゲートがある巨大な道路が上の方に伸びていっていた。ただ、その道路を走っている車両はほとんどなかった。


ゲート付近。少しアオズマ号を止める。

「よお、シェフ。昨日のカオスは大丈夫だったか?」

ゲートの係員らしき機世界人が声をかけてくる。


少しシェフと係員は会話をして、アオズマ号を再出発させる。


これはアウトバーンと呼ばれる大道路らしい。

アウトバーンはいくつもの大きな柱に支えられながら。中空を限りなく長く伸びていた。元いた世界でいう、高速道路の超巨大なバージョンと考えるとわかりやすい。


「そういえば、カコってなんであんなところにぶっ倒れてたんだ?血も出てたしよ」


聞かれて気づく、私は学校を飛び出して階段から落ちてしまっていたんだ。そのことを言うべきだろうか…

「その、歩いてたら階段から落ちちゃって…」

結局にごしてしまった。


「フーン、なんかワケアリっぽいけど、まあいいや。カコはこれからオレの右腕になる予定だからな。」


昨日からシェフは、自分の部下になる新人がはいったことをとても喜んでいる。

純粋なシェフの様子はおもしろかった。

「ふふっ…わかりました!」



少し道路を走って、いくつかのビルの横を過ぎると、建物がなくなって雰囲気がバッと変わる。道路の左手側には、険しく果てしない荒野が広がっていた。私はその景色に圧倒されていた。


「そっち側は魔世界だぜ。ミキーネとオレらの街はちょうど機世界と魔世界の境界にあるんだ」


「魔世界…」


想像以上に、その世界は過酷なのだろう。

とても普通の人が生きれるような場所には見えない。



ワォォォォォーン…



遠吠えが聞こえてきた。狼だろうか。


「おいおい、ダイアウルフか?」

「ダイアウルフ?」


「カコ、つかまっとけよ!!」

「きゃぁっ」


アオズマ号が更なる加速を始め、私はシェフの腰にぎゅっとつかまる。


後ろから鋭い駆け足の音が聞こえ、三匹の赤毛の大きな狼が襲いかかってきていた。


シェフは鋭くアオズマ号を切り返し、私を後ろに乗せながらも狼たちを相手する。

「こいよっ!」

そこまでの手間でもなかったようで、どこからか取り出した剣のような武器で三匹を手玉にとり、ものの数秒でアウトバーンから突き落とした。


「ゲートにいた奴の言ったとおり、今は魔獣も入り放題みてぇだ。」

「セキュリティシステム…ってーの?よくわかんねぇけどよ。たまにはこういうのも悪くねぇけどな。」


最後のほうの言葉はあまり聞こえなかった。

「シェフ、すごいですね!」

マスターが言っていた通り、シェフはとても腕っぷしが強いようだ。


「お、おう。まあな」

少し照れながらぎこちなく答える。そこで私はシェフの変な様子を見て、勘づく。

まだ腰に抱き着いたままだったみたいだ。なんだかそのことに私も気恥ずかしくなり、元のように服を少しつかむ形にもどった。


またしばたくアウトバーンを走り続ける。車通りは少なく、ほんとにたまーにすれ違うくらいだ。


「そういや…アオズマにマスター以外に後ろに乗せたのはじめてだぜ」

「そうなんですか?」


「おう、金貯めて最近ようやく買えたんだよ。ありがたく思えよ?」

「…てか、カコってもしかしなくても女?」


「え?そ、そうですけど…」


「へ、へぇー…そうかよ。そういえば、女とこんなに密着したこと、ねぇかもしんねぇ」


「なんですか?」

風の音で最後のほうが聞き取れなかった。


「い、いやー?別になんでもねぇけどー?」

なんだか声が裏返っている気がする。


またしばらく走り、いよいよ首都のミキーネ、巨大なビル群が目前に迫る。一つの都市というぐらいだから、視界に収まらないほどだ。


入口と同じくらいの大きさのゲートをくぐる。



街に入る手前のところ。



「…なんかくるな」

スレイは敵意のあるような、殺気があるような一つの気配に気づいた。

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