(読み飛ばし可)《ミキーネ中央新聞 再特集:カオス現象のすべて》

 かねてより私たち機世界のMCマザーコンピューターレーアと管理統括機関シップが発表している「カオス現象」について再特集を行う。というのも、現時点で「カオス現象」の発生は確実視されており、その内容を把握することが、各々の対処に有用だと考えるからである。

※このようなアナログ媒体を未だにだれが見ているのかという質問は受け付けない。


 「カオス現象」とは何なのかを端的に言うならば、時間空間的に並列していたいくつかの世界が接続、あるいは衝突する現象を指す。


 250年前、私たちの機世界が魔世界と突如一体化した。「大接界」と呼ばれる世界的な事件である。今回発生が予期されている「カオス現象」はその「大接界」よりも大規模なものだと考えてくれればよい。「大接界」が機世界の大陸西海岸にのみ魔世界との接続が行われたのに対し、カオス現象」の影響は機世界、魔世界のあらゆる物理的、空間的な位置で世界が接続すると考えられているからだ。空の上に突如として別世界が出現する可能性もあるし、大陸の中心に大きな穴が発生することさえあり得る。首都ミキーネが一夜にして消滅…そんな最悪のパターンすらもいくつでも考えうるのだ。


 レーアとシップが行った幾重もの計算。それは「大接界」前後の時空間数列とレーアが行った独自計算で算出された数字が近似しているという事実を散見したことに端を発する。レーアはその数値をシップに提供し調査の必要性を述べた。即座にシップはヴファイ第四局長をリーダーに研究チーム《コネクション・2》を立ち上げる。ヴファイ局長は「大接界」後に起こった二世界大戦を終結させた究極計算を行ったチームの一員であったことで知られる(当時は一局員であった)。日に日に《コネクション・2》の研究は大規模になっていき、民間人員も研究員として募集されるほどであった。多くの在野の知識人も交え、シップのメインタスクとして設定されてからすぐ、「大接界」を超えた世界の接続が迫っているという事実が明らかにされた。《コネクション・2》はこれを「カオス」と名付け、すぐさまレーアにその事実を報告。状況判断を仰ぐ。レーアは即時、その事実を機世界全体に公にすることに決定した。「大接界」時のMCマザーコンピューターオーワンが当時この事実の秘匿を決定したことで発生した混乱が前例にあったからだ。

 結果として、レーアの判断・手腕は正しかったと言わざるを得ない。特にこの事実をカオス「現象」と名付けたのは効果的であった。機世界人は事象・現象に対しては興味・関心が勝るからだ。当社のアンケートの回答結果でもそれは明らかである。機世界人の反応は様々であるが、一般に各自、自衛を進めたようだ。

 カオス現象の公表後、即座にシップ主導で機世界人の各都市にはカオス現象対策班が設置された。リスクレベル・リカバリーレベルの再設定。都市のバリアモードの強化。市民組織の自警団との連携確認。郊外、無人地に避難所を新設など、カオス現象の対策は多岐にわたる。なお、自律型ドローンの配備も検討されたが、「大接界」時の暴走を反省し、セキュリティレベル2以上の操作型ドローンの設置にとどまる。紙面裏には各避難所の位置、ルートを記載している。


 私たち機世界人は、かつて「大接界」時に全く文化の異なる「魔世界」と邂逅することになった。混乱に乗じた侵略、謀略の過渡期に起きた大戦。当時の大戦の傷跡は未だ各地に残されている。しかし大戦終結時に結ばれた和約は現在も有効であり、交流も盛んになっている。かつて争った二世界はこの度、「カオス現象」の存在を共有して、手を取り合うことを約束しているのだ。機世界のレーアと魔世界のシド公爵の会談。大戦の英雄たち、中でも機世界のヴファイ局長、魔世界のハルバラン氏らが度々各両世界の都市に訪問し友好関係を明らかにしているのは喜ばしいことである。その結果、二世界の住人は垣根なく救援を行われることが確約されたのだ。


 今一度繰り返すと、「カオス現象」はかつてない規模の影響を及ぼすとされている。「機世界」「魔世界」の他に新たな世界が出現が予期されている。その世界は一つや二つではないだろうし、友好的とは限らない。そもそも意思疎通が可能かもわからないのである。しかし、我々はかつての悲劇を決して繰り返してはいけない。目指すべきは対話の道だ。その為に必要なのは世界を構成する私たち一人ひとりのモラルの高さである。決して技術や膂力のみで解決する問題ではないのだということを、私たちは理解しなければいけない。


             ミキーネ中央新聞記者:ツーオが記す

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る