7.私は

「やめてください…いいですか?」


マスターは続ける。




銃をつかまれている人だけじゃない、機械の人も含めその場にいる全員がマスターの発するビリビリとした圧力の前で声がでない。




カウンターのイスから転がり落ちていたレイヴンさんも、あわわわと震えていた。




重装備の一人が声を上げる。


「下ろせッ!任務は…中止だ。」




「し、しかし…。」




隊長の男も勿論。この状況の意味がわかっていない。


(わけがわからない。)




「戻って上の指示を仰がなければ。残してきた隊員も心配だ。」


自らにも言い聞かせるように指示を出す。




耳元を確かめる。


(…通信機も壊れているのか)




出ていく前に彼はパッと店中を見渡す。


その状況くらいは報告しなければいけないと考えたからだ。




少し長い間、私と目が合った。




何かに気が付いた顔をしている。




私は顔を伏せた。




「その子は…?」


その男の問いで、場にいた面々が私の方に視線を向けた。




「実は…この少女を探しているんだが」


リーダーの差し出した写真にはなぜか私が写っていた。制服姿の私だ。






「家出してしまったようで、保護対象なんだ」






そういうことか、と心の中で合点がいった。


滅多に帰ってこない父親が政府の少し特別な機関で働いていたことは知っていた。




おそらく、その父親が私を連れ戻そうとしているのだろう。




正直、私は…帰りたくないという気持ちが強かった。


だけど…このお店に迷惑をかけてしまうことはもっとよくないのはわかっていた。




席を立ち上がろうと腰を上げ、震える声をあげる。




「わ、わたし…」




「私の妹ですけど、人違いでは?」


私のあげた声にかぶせるように、声を発して、マスターがリーダーの男の視界に割り込んだ。彼の視界に私が写らないように。




(え…)




「おい、いきなりバンバン撃ちやがって、いい加減にしろよ。」




大きな機械の人も前にでる。




黒装備の一員はそのプレッシャーにたじろぐ。




「…すまなかった。今度正式に…謝罪に来る。」




「行くぞ。」


他の男たちに声をかける。




マスターは言う。


「…次はお客さんとして来てくださいね。」




その言葉に少し反応したのか、リーダーはこちらに振り向きかける。




「…ああ。本当にすまない。」




男たちは出ていき、とりあえず場は収まったみたいだ。




マスターが私のほうに顔をむける。


「すいません…。勝手にあんなこと言ってしまって…」




「いえ…ありがとうごいざいます」


私の気持ちを察してくれたのか、とっさに庇ってくれたマスターへの感謝の気持ちは大きかった。こんなときでも目をあわせることができない自分が恥ずかしい。




その直後。


「おいいいいいい!!」




「これ!オレの料理いいいい!!!」


カウンターの奥からシェフの大きな声が聞こえた。




今、目が覚めたのかな。

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