5.来客
私はこの料理店のカウンターに座り、マスターと呼ばれた彼の手さばきを見る。
「とりあえず簡単な、ホッとする飲み物とおつまみでも用意しますね」
と言われて私はなぜか手をしっかりと膝のところにおいて背筋を伸ばして座っている。
きれいな手さばきで、今は飲み物を作ってくれているみたいだ。
ちなみに、スライムシェフさんは後ろでメイン料理の準備をするらしい。
いい匂い…とはいかない匂いがキッチンからするような、しないような。
「お先に飲み物をどうぞ。」
ホットココアだ。
機械の人やスライムがいるなかで、私が口にしても問題のないようなものを用意してくれたのだろうか。それともみんな私たちと同じようなものを一般的に食べるのかもしれない。
「あ、ありがとうございます。」
ココアを飲もうとしたそのとき。
ガチャリとドアが開く音。
カランカランとベルがなり、ドキッとした。
この店の出入り口から探偵がつけるような帽子を深くかぶり、足元まである分厚いコートを着込んだ子供のように背の低い人物が入ってきた。
前が見えてるようにはみえない。入口のすぐ近くに置いてある新聞のようなものを手に取り、ヨタヨタ歩きでカウンター席の方に進み、私の二つとなりにぴょんと飛び乗った。
「ヘイ、マスター。」
まるでボイスチェンジャーを使ってるかのような作られた低い声だ。
「こんばんは、レイヴンさん。いつものですね。」
コクリ、とそのレイヴンさんは頷いて、そのあとやっとこちらに気付いたのか、ちらりと私に目を向けて、目を新聞に移す。
一瞬見えたレイヴンさんの目は大きくパッチリとしていてきれいだった。
直観的に私は、レイヴンさんは少女なのだと思った。
「ふむふむ。MCレーアが予測するカオスの時迫る。か。なるほどなるほど…。」
レイヴンさんは新聞を口に出しながら読むタイプらしくて、そのわざとらしさに私は笑いそうになってしまった。
「なるほどね、興味深い。フーム。相槌もセットに、そこそこ大きな声で新聞を読んでいる。」
そして、ちらちらとこちらを見て、マスターのほうを見る。
マスターとレイヴンさんが目を少し合わせる。
「ほんとに勤勉ですね、レイヴンさん。」
「…まあな。社会情勢を知るのは常識だ。」
レイヴンさんは少し誇らしげな声色をしている気がする。
「最近の地震もかなり大きかったですし、カオス現象というものもほんとに近いかもしれないですね。」
地震が頻発しているのは本当だったが、カオス現象?という単語は初めて聞いた。
「あの…」
そのカオス現象というものについて質問してみようと口を開けたとき
視界が揺れて、
地面が揺れて、
世界が歪む、
大きな…とても大きな地震が起きた。
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