4.忍び寄る

夜、廃ビルの街並み。窓が黒い大きな車はその車体に似合わず静かに、走り去る。


月光は明るく、雲一つない。ここ数日雨は降っていない。




「ここらへんで止めるぞ。」


車が止まり、中から出てきたのは黒づくめで重装備が六人。銃器も手に持っている。




「少女が進んでいったのはこの先なのか。」




手には少女が映った写真を持っている。


「どこから入り込んだんだろうな?」




「例の少女…上層部の家族らしいが、変なもんが見えるとかで苦労していたらしい。」




「へぇ、だからってことですか。」




「よく今まで問題にならなかったですね。」




「ごちゃごちゃ言ってないで、そろそろいくぞ。」




男たちは黒いバイクに乗りかえて走りだす。




通信機で会話をする。


「それと…今回の件はシーカー隊にも声がかかっているらしい」




「シーカーが…?」




「急ぐぞ」




彼らは大通りから十字路で散開していく。




しばらく走った先の狭い道。




黒づくめの一人が何かに気付き、バイクを止めた。


通信機に向かって報告する。


「D4エリア、旧繁華街地区。比較的新しい血痕を確認。階段下。」




その現場を調べはじめた。




「かなりの出血だ。新しいしはっきりとしている。」




階段を見上げる。途中にも血がついているのがわかった。




「…上から落ちたのか。かなり高いぞ…。」




「了解 全員到着まで待機」




「了解」




しばらくして、全員が集まった。


「やはり結構な高さのようだな…。血の量から見ても意識を失うか、ほとんど動けないくらいのものだが。」


隊長格の男が言う。




そこでふと、隊員の一人が何かに気付いたようだ。隊長にかけよった。


「隊長、少し先から音が…聞こえてきます。」




「なに?」


隊長は怪訝な顔で反応した。




「封鎖地区での違法営業はもはや根絶されたはずだが…」




「二人ここに残れ、他はついてこい」




音が聞こえたという隊員を先頭に、警戒しながら進んでいく。




隊長は頭のなかで考える。




(それにしても、最近はおかしいことばかりだ。頻発する地震。異常現象に怪奇現象の遭遇報告。なにかが起こっているのは間違いない…これがの前触れなのか)




「ここか…」


たどり着いたのは、地下に続く階段の先の扉。


半地下のバーなどがありそうなテナントだ。




「確かに、音がするな。」




「ジャズですか?」




「それに、話声、笑い声も。」


その不気味さに隊員たちの厚い装備の下からは汗が噴き出す。




隊は突発的な事態にすぐ対応できる、任務下での即時行動の権利が与えられていた。


違法な集会に逃げる隙を与えてはいけない。




「3・2・1で突入だ。」




指で合図をする。




3…




2…




1…




扉を勢いよく蹴り開けると、埃が舞った。




錆びれた、廃墟。




誰もいない…?




ただ、確かに音楽がすぐそこから聞こえてくる。話し声も。




「どうなっている…!?」




「お、おい…耳鳴りが…。」




キィ―――――――ン




グぅッ!




唸るような強い耳鳴りとともに大きな、大きな地震が起こった。




世界が歪んだ。

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