終章 - 継いだもの -

 シュトたちを追う《狂える獣》はいなかった。


 何とか息をつき、朝を迎えた。

 野営の場所には旅に必要な道具も置き捨ててある。

 タイカがやや先行し、野営地へ戻った。


 焚火の燃え滓と血だまり。血だまりの中に沈む獣の死骸。


 野営地には、それだけが残っていた。

 かろうじて、四足の動物だと分かるその死骸に、少年は近づいた。

 膝をつく。外套が血で汚れたが、少年は気にした様子はない。シュトたちも止めなかった。


 赤黒く固まった獣の毛を、少年はそっと撫でた。撫で続けた。




 数日後。


 シュトたちは村を見つけた。

 その間、少年は静かについて来ていた。

 ただ母親の遺髪と、血で赤黒く染まった獣毛のひと房を握り続けていた。


 村の入口には、崩れかけた石柱があった。

 門番のように佇むその石柱を、シュトは見上げた。

 亡くなった女性が書き記した村。この村かもしれないと、シュトは思った。

 入口近くの畑で、しゃがみ込み土をいじる老人が顔を上げた。

 どことなく、見たことのある顔。少年を見る。目元が似ていた。

 

 老人が胡乱げにシュトたちを見る。視線がさまよい少年を見つめ、そして驚きの表情を浮かべた。

 

 老人が駆け寄って来た。




── 第二話 了 ──

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