第一話 蛮族
第一章 - 遭遇 -
困った。
ヤムトは、あぐらをかいて頭を掻こうとした。
が、縄で手首を縛られているので指が頭に回らない。仕方なく、手首で頭をこすった。
「何を呑気に」
鋭い声が、横から聞こえる。
赤い髪と瞳の少女がつぶやいた声だった。同じように手首を縛られて、しゃがみこんでいる。
さらにその横から吐息の音。
こちらは、継ぎ接ぎだらけの外套をまとった青年の溜め息である。
ヤムトや少女と同じように手首を縛られてる。
青年の髪は黄色と黒の斑色。同じく黄色と黒と、異なる色の瞳。異貌といってよいだろう。
少女の名をシュト、青年の名はタイカという。
共に、旅の連れである。
タイカの、その左右異色の瞳から向けてくる視線もシュトと似たり寄ったりの、冷たいものであった。
まあ、無理もない。
こんな状況になっているのは、ヤムトに原因があるのだから。
野盗に襲われた。
獣に襲われる頻度よりは少ないが、何度か経験済みである。
ただ、今までの様子と異なっていた。
まず野盗の容姿。
野盗のほとんどは、切羽詰まったような貧相な体格に武具も粗末な棒や、剣とも鉈とさえ呼べないような得物ばかりだった。
だが、今回出会った連中は違った。
体格が大きく、肌は白い。その地肌に直接分厚い毛皮をまとい、武器も鉄器や釘のついた棍棒など、凶悪な類だった。
そのような連中が、見えている範囲でも五、六人はいた。
それでも、善戦した。
木々の茂る森の中での戦いである。
タイカは優男な外見からは想像もつかない使い手であった。
そしてシュト。
彼女は《
《
彼女の精霊は火であり、腰につけた
普段はタイカが禁じているので、火の精霊を戦いに駆り出さないシュトであるが多勢に無勢である。
火を自らにまとわせ、しかし牽制に留めていた。
野盗の何人かは火傷や、タイカに斬られ手傷を負い、このまま退散するかと思われた。
が、そこでヤムトが下手を打った。
独り、逃げ出そうとしたのだ。正確には独りではなく、相棒である毛長駝鳥、薄墨姫も一緒だったが。
ヤムト独りで逃亡していれば逃げ切れたかもしれない。しかし旅慣れているとはいえ毛長駝鳥の薄墨姫は細い木々の隙間や根や草で凹凸の激しい地面を、咄嗟には素早く移動できない。
野盗に追いつかれ、武器を突き付けられ、降参するしかなかった。
そして、ヤムトを人質にタイカたちも降伏する羽目となった。
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