第4話
弟が泣いていた。
お袋が俺を叱り、俺は涙を堪え、親父はおろおろと狼狽えている。
相撲を取ったのだ。
親父の応援している大関が黒星を付けれられ、悔しがっていたのを見て、俺と弟は大いに興味を引かれた。
普段むっつりとして感情を表に出さない親父があんなに悔しがるなんて。
相撲っていうのはどれだけ面白いものなんだ。
見様見真似でがっぷり四つに組合い、押し合った。
当然、俺が勝った。
弟は6歳。俺は8歳。体格が違った。
転んだ弟は額をぶつけて泣き出し、それを聞きつけてきたお袋が雷を落とした。
俺は納得いかなかった。
俺と弟は真剣に戦ったんだ。
弟は額の痛みと負けた悔しさで泣いている。
俺は勝ったんだ。
なのに、なんで俺が怒られなきゃいけないんだ。
泣きたいのは俺のほうだ。
俺と弟は仲良しだ。
性格は全然違うけど、ずっと仲良しだ。
彼女が出来たときは互いに紹介し合うし、休日には酒だって一緒に飲む。
親父と弟と、三人で釣りにだって行く。
一度だけ、親父と二人だけで釣りに行くこともある。
釣果はゼロ。
ああ、弟がいなかったからだ、なんて、恥ずかしそうに、悔しそうに、俺と親父は笑い合う。
お袋は怒っている。
弟は泣いている。
親父は狼狽えている。
俺はこの家族を、死ぬまで愛し続けることになる。
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