第三章:監獄国家イーラン・コパ

首都ランプ観光!

 軍事国家ナーランプの危機を救ったクレイたち五本の槍だったが、プラン王が用意した宿屋で三日三晩、どんちゃん騒ぎをしていた。飲みたがり騒ぎたがりのパーティメンバーとリアンをプラン王が焚き付けたのである。

 しかし、クレイとルネ、そしてセレンは二日目からは飲み会に参加しなかった。二日目に二日酔いになり、しばらく酒は要らないと三人で誓いあったのだ。


 そしてその翌日、エル歴千年 五月二十三日 午前。


 クレイは朝からルネとセレンと一緒に、首都ランプの観光に繰り出していた。


「やっと観光だー!」


 ルネが両手を挙げて叫んだ。クレイも「よっしゃあ!」と気合を入れている。セレンはやれやれ、と言いながら肩を竦めていた。


「観光ってそんな気合を入れてやるものだっけ?」

「バッカお前、見知らぬ土地の観光もまた冒険なんだぞ」

「言いたいことはわかるけど」

「それに何より、ルネが久々にハイテンションだ」


 クレイが指したのは、くるくると回りながら鼻歌を歌っているルネだった。久しぶりに、彼女のテンションが高い。ここのところ、強大な敵と戦うようなことが多かったからか、ルネは大人しかった。

 クレイ達の身を案じていたのもあるのだろう。

 だが、今の彼女は全てから解放されたようなスッキリとした笑顔を浮かべている。


「ねー! お二人さーん! 早く行こうよー!」


 宿屋の前で駄弁る二人の前に躍り出て、ぴょんぴょこと飛び跳ねはじめた。

 クレイは、苦笑しながらルネの肩を掴む。


「わかったから跳ぶな、花弁の下から根が見えまくってんぞ」

「本当、アルラウネって不思議よね、どうなってんのかしら」

「私にもねー、わかんない!」


 言いながら、街を歩きだす。午前のまだ早い時間だが、人の往来はそれなりにあった。王城の近くの高級宿屋から首都一番の大通りであるランプ通りを南下すると、商業地区が見えてくる。

 ほかの街と比べると、武具屋や魔道具店の看板が多かった。街に装飾の類はあまりなく、質実剛健といった様相を呈している。

 軍事国家だけあって、ところどころに巨大な魔導兵器が配置されていた。


「なんかあれだねー、男の子が好きそうな街って感じだー」

「見てクレイ、ルネちゃん、あの魔道具店すごく大きいわ!」

「本当だな! 入ってみるか」

「男の子だけじゃなかったかー」


 商業地区の広場から見える最も大きな魔道具店に入ると、わざとらしいと感じるほどに大きな帽子を被った女性店員が笑顔で出迎えた。棚が所狭しと並んでおり、棚には多種多様な魔道具が並んでいる。

 魔石も大量にあった。

 セレンは、入口近くの魔道具の棚に早速釘付けになっている。


「そういやマナ技師だったな、お前」

「技師からしたら宝の山よ!」

「なにかよさげなのあるー?」


 ルネが覗き込むと、セレンは棚から一つの魔道具を取り出して見せた。掌サイズの杖のような見た目をしている。セレンがいつになく目を輝かせていた。


「これはマナを注ぐと……」


 セレンが言いながらマナを注ぐと、掌サイズの杖が瞬く間に変形し、箱型になった。どういう仕組かはわからなかったが、クレイは思わずソワソワとしてしまう。


「おお! かっけえ!」

「はい、やってみるといいわ」


 セレンから魔道具を受け取ると、クレイもマナを注いだ。すると、今度は箱型から杖の形に戻った。


「すげえ!」

「でー、これなにに使うのー?」

「杖型のときはマナの出力の補助器具になるの」


 セレンがつらつらと、説明をはじめる。

 彼女が言うには、杖型のときは魔法を使う際のマナの出力をほんの少し高めてくれるらしい。もっとも、出力を安定化させるものであり出力の総量を底上げするものではない。

 マナを魔法に変換する際に、変換効率が悪いとマナが漏れ出てしまうことがある。熟練の魔法使いですら、全くマナを流出させずに魔法を使うのは難しいのだとか。


「それを安定化させることで、マナの流出量を抑えてくれるってわけ」

「なるほどー、それで出力が高くなるんだねー」

「ルネは賢いなあ」


 クレイが言うと、ルネは「えへへ」と笑う。


「じゃあじゃあ、箱型のときはー?」

「箱型のときは周囲のマナを集める道具になるわ」

「集めてどうするんだ?」

「マナが十分集まった状態でこれを太陽に掲げると、バリアが展開されるのよ」


 言ってセレンが魔道具を掲げる。今は杖型なうえに屋内だから何も起きないが、条件が満たされればバリアになるという。クレイはセレンから魔道具をひったくり、店内に置かれているカゴに入れた。


「よし買おう」

「いいの? 高いわよ、それ」

「欲しいって顔に書いてんぞ」

「お金は結構あるからねー、役に立ちそうだしー」


 うんうん、とルネが頷いている。セレンはほんの少し頬を赤らめて、「ありがとう」と言った。クレイは笑いながら、カゴに光の魔石を10個入れて店員のところに持っていく。

 会計は手持ちの資金だけで、十分に足りたが、確かに高価なものだった。店員は「お目が高いですね」と微笑みながら、魔石とセットでほんの少しだけ値引きしてくれた。


 店を出ると、人の往来が先程よりも増えているようだった。


「あとどっか見たいところあるか?」

「んー、遊べるとこってないのー?」

「たしかここから西通りに行ったところに、闘技場があるらしい」

「闘技場かー、まあでも面白そうかもねー」

「行ってみましょうか」


 三人は、西通りの闘技場に向かった。

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