追放されたい新米冒険者と魔物娘の冒険録~溢れよわが冒険心、と魔王は言った~【第三章準備中】

鴻上ヒロ

第一章:追放されたがり冒険者クレイ・ストン

追放されがたり冒険者

 打ち鳴らされた砂礫に、まばゆい光が乱反射する。冒険者パーティ四本槍の剣士・フリントが、剣を何度も何度も打ち込む。対する冒険者パーティ銀狼の剣士は、防戦一方だった。


 突如、相手の魔法使いから炎弾。


「マイカ!」


 クレイが叫ぶと同時に、四本槍の魔法使い・マイカが杖から水流を放つ。炎と水は即座に蒸気に変わり、視界に水の粒が舞う。クレイは地面からドレインフラワーの蔓を這わせ、銀狼の魔法使いを拘束。同時に、クレイのそばに佇むアルラウネのルネが自身の蔓を銀狼の剣士を拘束。


「俺達の勝ちだ!」


 フリントの剣が、剣士の剣を叩き折る。


「そこまで! この決闘、四本槍の勝利とする!」


 審判の声が、浮遊都市ミナス唯一の闘技場ロコモーションにこだまする。一瞬の間を置いて、まばらな歓声が聞こえてきた。クレイはため息をついて、短い杖をベルトに差す。


「くっ……なぜだ!」

「んなの決まってんだろ。俺等のほうが強かった。そんだけだぜ」

「ふざけてる! あんたたちみたいな鬼畜パーティなんかが!」


 拘束が解かれた魔法使いが、クレイを睨みつける。クレイは敢えて睨み返してから、魔法使いをジロジロと観察しはじめた。太陽の光に照らされて綺羅びやかに輝く金髪は、短く切りそろえられている。ローブの下は薄着で、その中に隠されている二つの山がその大きさをハッキリと主張していた。


 視線に気がついたのか、サッと腕で胸を隠そうとしているが、薄着にシワが寄り、余計に主張を強めてしまっている。


 (よし、今回はあの手でいくか)


「さて、決闘の勝者は敗者に命令できんだよな? どうする? クレイ」

「クレっちー、パキッとした命令をお願い!」

「クレくん、どうするのー?」

「そうだな……」


 クレイはわざとらしく顎に人差し指の第二関節を当てて、しばらくの間を空ける。闘技場をしばしの静寂が包み込んだ。


「そこの魔法使いの女性」

「な、なによ! 早く決めなさいよ! なんでもやってやるわよ!」

「全裸でゆっくりと十回ってニャワンと吠えろ!」

「全裸ね、ハイハイやってや……は? は? は、ははは裸で十回回ってワンキャットの鳴き真似!?」


 魔法使いが叫んだ瞬間、地面が響くほどの歓声が闘技場の観客席から沸き起こった。クレイはニヤリとした薄ら笑いを作り、わざとらしく指をわきわきと動かし、「ほおら脱げ! そら脱げ!」と喚いてみせる。


 (決まったな、これで追放してくれる流れになるはずだ)


 苦節一ヶ月、随分と遠回りをしてきたものだと、束の間、クレイは目を閉じて思いを馳せた。


「クレイ……お前」


 フリントがクレイを見つめる。その顔は、どこか神妙そうだった。


「天才か? 流石俺等のリーダーだぜ!」

「ん?」

「クレっちマジ最高! あーしもあの女ひん剥きたかったのよね」

「え?」

「クレくんもいい趣味してるねー」


 クレイの思惑に反して、仲間は全員、乗り気のようだった。フリントは指笛を吹いた後、「早く脱いでもらおうか!」と相手を威圧している。マイカは顔を紅潮させ、じっと相手の魔法使いを見ていた。ルネも興味津々といったふうに目を大きく開いて、今しがた顔を歪ませながらローブに手をかけはじめた魔法使いを眺めている。


 クレイだけが、苦悩に顔を引きつらせていた。


 どうしてこうなったのだろうか。いや、もっと早く気がつくべきだったのかもしれない――クレイは思った。この手は、前に試してダメだった。なんなら、前はもっと直線的に襲っていたのにも関わらず。


 自分自身の胸の高鳴りが一瞬で引いていくのを感じながら、クレイは今すぐ走り出したい衝動を必死に抑える。


 しかし、今しがた露わになったその山は見たことがないほどに立派で、白雪のように白く、美しかった。まるで荘厳な雪景色を見ているかのように闘技場が静まり返り、注目しているようだ。


 クレイは、目の前でゆっくりと回り続ける雪山をただ眺め続けた。

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