27話 同じ結末の上にいる

「そんなことって……」


 それは、ニーヴが司令官室にて、テミルから聞き出した情報を報告している時だった。

 報告を終え、兵士が去ると、ニーヴとミオは顔を合わせた。

 これで銃撃事件は三回起きたことになる。


 キアンへの銃撃――


 ミオへの銃撃――


 そして、今回の銃撃――


「警告……でしょうか?」


 ニーヴのその問いに、ミオは首を横に振った。


「どちらかと言えば脅迫だろう。

 『もし、詮索すればこうなるぞ』そう言いたいのだろうな」

「詮索というのは、やはり……」

「ああ、『ゴールデン・レコード』のことだろうな」


 結局、あの謎の円盤がすべての中心にある。


 サッチ王国の大虐殺も――


 旧ゴールウェイ王国区域での銃撃も――


 今回も――


 全てはあの円盤の謎が引き起こしている――


 そうとしか思えない。


「銃撃犯は同一人物だと思いますか?」

「確定は出来ないが、同一人物の可能性は高いだろうな」

「複数人で動いている可能性は低いと?」

「二人までだろうな、多くて。

 三人以上になると、暗殺するにしても目立ちすぎる。

 それに、意思の疎通も難しくなるし、裏切り者が出やすくなる」

「なるほど……」


 ニーヴは説明に納得した様子だった。


「それよりも、分からないことがある」


 ミオは、怪訝な顔をして話を続けた。


「この暗殺者は一体、何を恐れているんだ……?」


 『ゴールデン・レコード』が事件の中心にあるのは分かる。

 だが、『ゴールデン・レコード』を手放すように仕向ける動きは全く無いのだ。

 その場合、ミオや今回暗殺されたテミルを狙う理由は無く、キアンやリズを執拗に狙うはずなのである。


「……もしかして、逆じゃないでしょうか」

「……逆?」

「恐れているのではなく……進めさせたいのかもしれません」

「進めさせたいというのは……解読を、か?」

「はい、解読を滞り無く行わせるために、注意を引いているのかも……」


 ニーヴの推測は興味深いものだった。

 確かに、暗殺・暗殺未遂が続いたせいで、『排除』することが目的だと勝手に決めつけていた節があった。


「注意を引くというのは……我々軍部を?」


 ミオの問いに、ニーヴは頷いた。


「あえて他の事件を起こすことで、軍部には事件を追わせ、解読者達は解読を進める……解読者も、軍部も一体となっていた場合、何か起きたら直ぐに解読を止めると思いませんか?」


 ミオはリズの事を頭に浮かべた。


「……確かに止めるな」

「そうやって、一体となった動きを阻止するために、両者を引き剥がしたかったのかもしれません。だから最初にリズ様を狙ってミオ司令官を煽り、狙撃事件を止めるためには犯人を探さないといけないと思い込ませ、リズ様から引き剥がした……」

「私を狙った理由は?」

「犯人が次にミオ司令官を狙っていると思い込ませ、リズ様のことよりも事件のことを優先するようにするためのカモフラージュ……とか」

「……テミルが殺された理由は?」

「サッチ王国の生き残りが何か重要な情報を持っている……だから急いで探さないと、殺されるかも知れない……そう、ミオ司令官に思い込ませるための罠……」


 ミオは少し考え込み――机に置かれたベルを鳴らした。

 すると、部屋をノックする音が聞こえてきた。


「お呼びでしょうか司令官」

「リズ天盤学師と連絡が取りたい」

「了解。少々お待ちを――」


 そう言うと、足音はドアから遠のいていった。

 ミオの顔はますます険しくなった。


「ミオ司令官……」

「ニーヴの推理は可能性の一つとして考えられるよ。でも、証拠はまだない」

「はい、その通りです……」


 ミオは頻繁に顔を触っていた。

 落ち着かない様子だ。


「私を脅したいがために狙っているという可能性も……いや、そしたら結局……」


 ミオは考えがまとまらない様子だった。

 こんなに狼狽するミオを見るのは、ニーヴは初めてだった。

 再び、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「どうだった⁉️」


 ミオは大きな声をドアに先にいる兵士にぶつけた。


「え、えっと……現在解読が佳境のため、外との連絡は遮断中とのことでした」

「聞いていないぞ‼️ いつからそうなった⁉️」

「え、えっと……昨日からです…‼️」


 ミオは力強く机を叩いた。


「それはいつまで続く⁉️」

「えー……明日には解除されるとのことです‼️」


 ミオを頭を抱え、しばらく沈黙した。

 そして、ゆっくりといつもの口調で話した。


「分かった……ありがとう」

「し、失礼しました‼️」


 そう言ってからしばらく、司令官室では沈黙が続いた。

 ニーヴは、なんて声をかければいいのか分からず、ただ立っていることしかできなかった。

 ミオは頭の中で思考を巡らせた。


 ニーヴの推測が半分当たっている――


 それはつまり――


 完全に罠にハマっていたということを意味する――


 そして今――


 計画通りに事が運んでいるとしたら――


 自分がやるべきことは――


 ミオはいつもの落ち着いた様子に戻り、口を開いた。


「……明日、天盤学院に乗り込む――」


 更に話しを続けた。


「解読作業を、強制的に止めるぞ」

「りょ、了解しました……‼️」


 ミオはこれが最善の策だと思っていた。

 ニーヴも同じ考えだったため、否定はしなかった。





 だがしかし、二人は知らなかった――


 この最善のための行動が、全く一緒であることを――



 『サッチの大虐殺』が起きた理由と、全く同じであることを――



 知らなかったのである――





 歴史は再び繰り返される――

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