26話 『天の空洞』

 『天の空洞』――


 全く聞いたことのない言葉だった。

 だが、何か恐ろしいものが隠されているようにも感じた。


「……その言葉に聞き覚えはあったか?」

「いえ、全く聞いたことがありませんでした……」

「いとこに違和感は無かったか?

 そんな聞き覚えの無い言葉を突然言うなんて、少し心配になるだろ」

「ええ、ですが『光道者』は時折よく分からない単語を言いますので……そこまで違和感は無かったです」


 ニーヴがリズと話している時と考えれば、テミルの内心も理解できた。


「なるほど……他には何か言っていたか?」

「関連しているかどうかはわからないですが……」

「全部言ってくれ」

「独り言で……『円盤は送り込まれてきた』とか『目的は何だ』とか『こんな事実は公表できない』とか……」


 前の二つは置いといて、最後の言葉にはとても意味があるように見えた。


「最後の言葉……それは虐殺のことを言っているのか?」

「私にはなんとも……」


 何とも引っかかる言葉ばかりだ。

 できることなら問い詰めたいが、テミルも多分なんの言葉なのか理解していないだろう。

 ニーヴは、これ以上テミルから重要な情報は引き出せないだろうと考え、一つ疑問を解消しておこうと考えた。


「一つ質問なんだが、どうやってサッチ王国の外に出た? 鎖国中、人の出入りはかなり厳重に管理されていたと思うが……」


 そう、サッチ王国は突如周辺国と国交を断絶してから、人の出入りを厳重に制限していた。

 オーウェン共和国の軍部も、密偵を送り込む努力をしてみたものの、全て失敗した。

 結果、中に協力者を作る事と、遠視の魔法で情報を取る作戦に切り替えたのだが――


「正直、考えはなかったです。

 国境の門まで行って、なんとか隙を見て外に出ようと考えていたくらいで……

 そしたら、門に誰もいないことに気づいて、どうしたのかと周りを伺っていたら……」

「外から軍が押し避けてきた」

「そうです。戦争だと思いました……なので、ドサクサに紛れて直ぐに外に出てしばらく放浪していました。そしたら……」

「虐殺事件の話を知ったと……」


 テミルは頷くだけだった。

 これでテミルがサッチ王国で何を知り、どうやって抜け出したのかが分かった。

 それだけではない。


 『ゴールデン・レコード』にまつわる多くの情報が手に入った。


 ――『天の空洞』


 ――『円盤は送り込まれてきた』


 ――『目的は何だ』


 ――『こんな事実は公表できない』



 どれも興味深い。


 ――早速、ミオ司令官に報告しなければ


 ニーヴはそう思い、テミルの聞き取りを終わることにした。


「協力ありがとうテミル。居住のことについてはもう心配しなくていい、私の方から上に掛け合い永住権を渡すように交渉する」

「ほ、本当ですか⁉️」

「ああ、だからこれからはオーウェン共和国で楽しく暮らしてくれ。

 もちろん、今回の聞き取りは、内密にな」

「も、もちろんです‼️」


 テミルの返事に、ニーヴは笑顔で返した。


 ――とは言ったものの、数日は行動観察が必要だな


 ニーヴは心の中でそう思った。


「それじゃ、もう帰っていいぞ。時間を取らせて済まなかったな」

「いえ、それじゃ、失礼します‼️」


 テミルは足早に備蓄庫を後にした。


 それは、開放された安堵からか、永住権を約束された嬉しさからなのか――


 去っていくテミルの後ろ姿を見て、ニーヴはふとそう思った。




 そして翌日、ニーヴの下に、テミルが殺されたという知らせが舞い込んできたのだった。

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