25話 虐殺事件の朝にて
ニーヴは少し笑みを浮かべ、胸を撫で下ろした。
「それじゃ、どうして生き残ったのか、教えてもらえるか?」
「……いとこから言われたんです。直ぐに逃げろって」
「いとこというのは、中央王宮の役員?」
「いえ、光道者でした」
ニーヴは心の中で喜んだ。
『光道者』とは、サッチ王国の科学者の総称である。
ニーヴが指揮を取っていた『サッチ王国の生き残りを探す』任務――
この任務で最も見つけたい人物がまさに、『光道者』の関係者だった。
まさか、こんなに早くその人物と出会うとは――
ニーヴはより一層、話を聞き出すことに集中した。
「その光道者のいとこからは、『ゴールデン・レコード』という単語は聞いたことはないか?」
「あります。まさにそれを研究していると言っていました」
「『ゴールデン・レコード』については、なんて言っていた?」
「あの……そんなに詳しくは……私は学が無いのであんまりよく分からなくて……」
「単語だけでもいい、何でも言ってくれ」
「えっと……こんな不思議な物体を見たことはないと、興奮しながら言っていました」
「……それ以外は?」
「もう少しで解析が終わるとも……」
「解析のことは何か言っていた?」
「いえ……ただ、解析を行う過程で多くの知識が手に入ったと……これを他国に渡すなんて、勿体ないから鎖国は正解だったとは言っていました」
「……それはいつ頃の発言だ?」
「確か……一〇年前とか……ですかね」
一〇年前――
まさに、サッチ王国が周辺国と国交を断絶し、鎖国し始めた時期――
このテミルの証言により、サッチがなぜ鎖国を始めたのか見え始めた。
ニーヴは、興奮を抑えながら、更に聞いていく。
「最近では何か喋っていないか?」
「最近は……特にここ二、三年は心配になるほど疲れているようでした」
「それは、どうして?」
「多分、研究がうまくいってないんだろうなって……」
「直接は聞かなかったのか?」
「あまり詮索はしませんでした……
年々『光道者』への行動制限は厳重になっていたので、下手に聞くと私が罰せられると思ったので……」
これもまた、知られざる情報だった。
近年のサッチ王国の状況はどこの国も把握することができていなかった。
テミルの喋り方をみるに、相当不安と恐怖が蔓延していたように見えた。
「でも、最後にはいとこから『逃げろ』と言われたのだろ?」
「はい……」
「その時は罰せられるとか思わなかったのか?」
「…………」
テミルは言葉に詰まっていた。
それは、何か嘘をついているのだろうかと、ニーヴは最初思った。
だが、テミルの手が震えていることに気づき、どうやら何か重大な事が起きたのだと確信した。
「……少し休んでからでもいいぞ」
「……いえ……喋ります……」
とても喋れる状態のようには見えなかった。
だが、テミルは震える声で喋り始めた。
「……その日の朝、突然いとこが起こしにきました。
いとこはここ数週間、研究所から帰ってきていなかったので驚きました……
そして、私に言ったんです『荷物をまとめて逃げろ』と……
『遠くへ逃げろ。国を出ろ』と……」
ニーヴは聞くことに集中していた。
下手に口を挟んで、テミルの決意を揺るがしたくなかったからだ。
テミルは一呼吸置いて、また話し始めた。
「『いったいどうして』といとこに聞いたんです。
そしたらいとこは……『見つけてしまった』と……
『知ってはいけないことを知ってしまった』と……」
テミルはそこで喋るのを辞めたように見えた。
ニーヴは堪らず、核心を聞いた。
「……何を知ったんだ?」
テミルは顔をあげ、困惑した表情をニーヴに見せた。
「……『天の空洞をみつけてしまった』って……」
ニーヴは背筋が凍るのを感じた。
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