23話 『ウラン』の弾丸、再び

 ニーヴはミオに飛びついた。


 勢いそのまま、二人は床に伏せた。


 同時に――窓が吹き飛び、ガラスが宙を舞う。


 ミオに覆いかぶさるニーヴの背中に、ガラスが散乱した。


「大丈夫でしたか、ミオ司令官?」

「私は大丈夫だ……そっちこそ、ガラスが……」

「少し刺さっただけで大したことありません」

「だが……」


 音を聞きつけ、部屋の中に兵士が集まってきた。

 ニーヴは立ち上がり、兵士に指示を出した。


「直ぐに対面の屋上を調べろ‼️


 それと首都の検問所を閉鎖‼️ 調べが終わるまで、誰ひとりブリトンから出すな‼️ 

 警備の増強も忘れるな、急げ‼️」


 狼狽していた兵士たちは統率を取り戻し、すぐさま部屋を出ていった。

 その働きに、ミオは感心した。


「流石だな」

「キアン殿のような犠牲は、絶対に出したくありませんので……」


 どうやら、旧ゴールウェイ王国区域での銃撃事件は、ニーヴの心に大きな傷を残していたようだ。


 しかし、そこからすぐに立ち直り、反省を活かすその早さ――


 流石、ニーヴだ。


「助かったよ、ありがとう」


 ニーヴは、恥ずかしそうに一礼した。


「……ですが、私はミオ司令官に謝らないといけませんね」


 ニーヴは、いつもの真面目な顔つきに戻し、話を続けた。


「どうやら、『ゴールデン・レコード』のことを嗅ぎ回ってほしくない連中がいる――それが確かだということが、今の出来事で確定しました」

「……ああ、早くしないと命が危ない――私だけではない、『ゴールデン・レコード』に関わった者全員が、殺されるかもしれない。

 サッチ王国の虐殺事件のように……」


 ニーヴは生唾を飲み込んだ。


「……直ぐに難民審査所の調査を始めます」

「ああ、頼む。それと、天盤学院周辺の警備も増強してくれ」

「はっ‼️」

「今回の狙撃事件については、私の方から上層部とサラ殿達に報告しておく」

「了解です‼️」


 ニーヴは一礼し、部屋を出ていった。

 ミオは、窓外を警戒しながら覗く。

 対面の城壁には、既に兵士たちが集まり、検証を行っているようだ。


 ミオは部屋の壁に開いた銃痕に近づく。

 覗いて見ると、壁は完全に貫通し外の廊下が見えてしまっていた。

 廊下に出て、貫通した先を探る。

 再び覗くと、今度は貫通していない。

 ナイフを取り出し、銃弾の回収を試みてみると――なんとか掘り出せた。

 弾丸のサイズから見て、対物スナイパーライフルであることが伺えた。


 だが、ミオが驚いていたのはそこではない――


 嵐ですら耐える対物障壁を施したガラスを破壊し――


 壁に施されている自重保護魔法、対物障壁を貫通――


 二つ目の壁でやっと止まったこの弾丸――


 これが、キアン殿を狙撃した弾丸――



 『ウラン』という物質を纏った弾丸なのか――‼️


 

 ミオの驚きは、恐怖に変わっていた。

 この弾丸は、今までの常識を確実に凌駕しているからだ。


 対策不明。


 完全な初見殺し。


 狙われ、撃たれてしまったら、確実に命を奪いに来る弾丸――

 

 そんな代物が、今度は自分に向けられた――


 それは、つまり……自分もキアンやリズと同じく、気づいてはいけない何かに気づいてしまった……そういうことなのだろうか?


 いずれにせよ――


 早く答えを見つけなければならない――


 この弾丸が、誰かの命を奪う前に――


 ミオは、弾丸を拳で握りしめ、廊下を奥へ奥へと歩いて行った。

 恐怖を押し殺し、妹を守る――その強い意志だけを支えに、歩いているようにも見えた。

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