21話 予感が的中しないために

 キアンのその回答に、ファーガルは絶句し、そして頭を抱えた。

 ソフィンはますます険しい顔になっていた。

 そして、独り言のように言った。


「一体サッチは何を知っているというの……?」


 リズも同じことを思っていた。

 円盤の材質、呪いの正体の物質、これがイコールなのではないかと気づいたのは、紛れもなく自分だ。


 そして、それに気づけたのも自分だけのはずだ。


 だがハールーンは、その物質を見て、『ウラン』と答えてきた。


 ということは、リズよりも先に――


 一〇年前には既に存在を認識していたということ――


 そして、それらの知識は表に出されず、秘密裏に蓄積されていたということ――


「素直に教えてくれるはずないよねぇ……」


 リズは懸念していた。

 ハールーンは多分、『ゴールデン・レコード』の解き方を知っている。

 だが、『解いた先』に何があるのかは知らないのではないだろうか。

 今回ここに潜り込んできた理由は、『解いた先』を見るためではないだろうか。


 完全に仮定である。


 だが、もし――


 それが答えだとしたら、何かが起きる前に手を打たないといけない。

 残念ながら知識では勝てない。

 彼のほうが『ゴールデン・レコード』に詳しいから。

 ならば、どうしたらいい……


 リズはふと、窓外を見た。

 青い空――

 薄灰色の雲――

 鳥はさえずり、飛び回る――

 遠くに見えるのは……

 オーウェン共和国軍司令部――‼️


 リズは素早くペンを取り、今日の出来事を紙に書き留めた。

 キアンのことも――

『ウラン』のことも――

 ファーガルのことも――

 ソフィンのことも――


 そして、ハールーンについても――


 事細かに書いた。

 そして最後に一言だけ添える。


『これから何が起きるか分かりませんが、私のことを守って下さい、お兄ちゃん』


 ペンを置き、紙を便箋につめ、キアンにこっそりと言う。

 この手紙を司令部に渡してきて――と。

 

 キアンはただ頷き、研究室をこっそりと出て行った。

 

 それと入れ替わるように、ハールーンが部屋に戻ってきた。

 不敵な笑みを浮かべながら――


 この後のリズの行動は限定される。

 ハールーンに現在の研究進捗を伝え、ハールーンの情報を追加しながら『ゴールデン・レコード』を解析していく事になる。

 解析が終わるまでリズは、没頭しなければいけない。

 それは、早く解析するためでもあるが、なにより、大事なことはハールーンを疑っていると思わせないこと。

 ハールーンの注意を外に向けさせないようにしなければいけない。


 そうして生まれた時間できっと――

 必ず――

 見つけてくれるはず――


 お兄ちゃんなら気づいてくれるはず――





 司令部で、ミオはその手紙を読んでいた。

 そして、ニーヴを呼び、こう命令した。


「オーウェン共和国の難民審査所を確認し、元サッチ王国の住民を探してくれ」

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