20話 ハールーンという男

「サッチの科学者って……サッチ王国の人間は全員死んだはずじゃ……?」

「ええ……私も最初はそう伺っていたのですが、モイスの上層部が、虐殺事件の前にモイスから抜け出した科学者がいるんじゃないか、と考えましてね」


 それを聞いたリズは、思わず拍手をしていた。


「なるほどね‼️ 言われて見ればその可能性はあるね‼️」

「それで、彼がその元サッチの科学者ということですね?」


 キアンの問いに、ファーガルは頷いた。


「サッチ内で科学者は『光道者』と言いますが、彼はその一人だったらしく、一〇年前に追放処分を受けたらしく、その後モイス共同体の親族の元で暮らしていたそうです」

「……追放された理由は?」

「わかりません。でも、何となく察しますけどね……」


 そう言ってファーガルは、またため息をついた。

 キアンとリズも、彼と同じ認識だった。


「ですが、貴重な存在ではありますね」


 また突然、部屋にいない人の声がした。

 だが、これもまた、リズには聞き覚えのある声だった。

 振り向くと、そこには褐色の獣人、ソフィン・パマヤが立っていた。


「ソフィンさん‼️」

「リズ、久しぶりね」


 アジル王国の科学者、『奏者』と言われる存在のソフィンは、『奏師』と呼ばれる一番上の職位についている。

 更にソフィンは、科学だけではなく、考古学にも明るく、祖国のアジルではリズ以上の天才として、多くの国民から尊敬されている。


「研究チームにご挨拶を……と思って訪ねたのだけど、中々複雑な状況になっているわね」

「いや、複雑にしているのはハルさんだけでして……本当にすみません……」


 ファーガルはまたしても、申し訳無さそうに頭を下げた。

 ファガールはとても和を大事にするゴーレムなのだが、あまりにも腰が低すぎて、話が進まなくなる時がある。

 まさに、それが今だ。

 リズは場の雰囲気を変えようと思い立ち、手を叩いた。


「ちょうどみんな集まってるし、『ゴールデン・レコード』の情報について共有していいかな……?」

「ええ、是非お願いするわ」

「お願いします。ハルさんには私の方から伝えておきますので」


 リズの思惑通り、全員の意識が『ゴールデン・レコード』に向いた。


「うん‼️ それじゃ、キアン君よろしく‼️」


 ――そうなると思いましたよ

 キアンは、久しぶりにリズの人使いの荒さを身を持って体感していた。


「……はい、では説明いたします」


 そう言って、キアンは自分がリズから受けた説明をファーガルとソフィンに伝えた。


 ――原因不明の大虐殺

 ――謎の遺言

 ――『ゴールデン・レコード』


 当然、このことはファーガルも、ソフィンも知っているだろうが、前提を間違えないようにするために、キアンはあえて伝えた。


 そして、リズが研究して得た結果も伝える。


『一、ゴールデン・レコードは二つある』

『二、模様だらけの円盤と、溝だらけの円盤』

『三、大きさは三〇』


 ここまでは、キアンが合流した時に聞かされた情報そのままだ。


「そして、今回大変苦労してとある結果を得まして、それを付け加えたいと思います」


『四、材質はアルミナと、ウラン』


 キアンは、板にペンを走らせ、そう書き込んだ。

 ファーガルとソフィンは、それぞれ頭の中で理解を深めようとしているようだった。

 ただ、リズだけは違うことを考えていた。


 ――結局、キアンって名前はやめたのね……


 最初に口を開いたのはソフィンだった。


「『ウラン』……というのはどういう物質なのですか? 初めて聞いたのだけど」

「私も初めて聞きました……」


 ファーガルも同調した。

 キアンは、発見までの経緯を話し始めた。

 できるだけ端的に。


「『ウラン』という物質については、どうやら私の故郷、旧ゴールウェイ王国に依然から存在していたらしく、ご存知『ゴールウェイの呪い』も、この物質が原因だと考えられます」

「呪いを放つ物質ってこと……?」


 ソフィンは眉をひそめてキアンに問うたが、キアンは首を横に振った。


「まだ仮定の段階です。我々もつい先日この『ウラン』という物質を知り、そして、手に入れましたので、全く研究が進んでいません」


 そう言ってキアンは、『ウラン』で作られた弾丸をファーガルとソフィンに見せた。

 二人は新たな生命体を見るように、まじまじと、興味深そうに見つめていた。

 すると、ファーガルはちょっとした疑問が浮かんだようだった。


「名前の由来はなんですか? 発見者が『ウラン』さんなのでしょうか?」

「いいえ、名前については教えて頂いたんです」

「教えてもらった……? 誰にですか?」


「……ハールーンさんです」

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