19話 合同研究チーム
「ああ、すみません。私、モイス共同体から来ました、『灯火』のハールーンです。気軽にハルと呼んで下さい」
『灯火』とは、モイス共同体にある科学組織の名称。
オーウェン共和国で言う、天盤学院と同じである。
「モイスの人……?」
リズは驚いた様子で聞き返した。
ハールーンはニコリと笑い話を続けた。
「ええ、合同研究チームの話、聞いてますよね?
そこに今回、モイス共同体代表として招致されました」
「ああ、そうだったんですね‼️」
リズは椅子から立ち上がり近づこうとすると――キアンが制止させた。
「……キアン君?」
キアンは鋭い目つきでハールーンを睨んだ。
「……モイス共同体の方なんですか?」
「ええ、そう言いましたよね?」
「モイス共同体にエルフの種族がいるなんて珍しいですね」
「珍しくても、全くいないわけじゃないですよ」
「そうでしょうね。モイス共同体に住んでいるエルフは片手で数えるほどはいます」
「……何が言いたい」
「エルフの『灯火』学者がいたら、私が知らないわけないでしょ?」
お前は怪しい。
キアンは、そう言ったも同然だった。
ハールーンは、不快そうに、キアンのことを睨んでいた。
一触即発な空気にリズは困惑していると――
「ここにいたんですか、ハルさん」
再び部屋の中に男が入ってきた。
白い外装を纏ったゴーレム種。
その男をリズは知っていた。
「ファーガルさん‼️」
ファーガル・サンソウンはモイス共同体の科学組織、『灯火』の『先導師』である。
『先導師』とは、オーウェン共和国の『学師』と同じであり、その分野における最高の職位だ。
そんな最高職位のファーガル先導師が、申し訳無さそうに頭を下げた。
「リズ学師、お久しぶりです。すみません突然……」
「いえいえ……あ、ファーガルさんも合同研究チームの?」
「ええ、モイス共同体の代表として来ました」
「あれ? ハールーンさんもモイス共同体の代表って……」
それを聞いて、ファーガルは額に手を当て、深くため息を付いた。
「ハルさん、またですか……?」
ファーガルは、ハールーンに詰め寄った。
「何度も言っていますが、貴方はあくまでモイス共同体の『灯火』預かりなだけで、『灯火』の肩書までは与えてません‼️
『灯火』の学者を偽って、色んなところに出入りしようとするのは辞めて下さい‼️」
周りからみても、ファーガルの言動は怒っていると分かる程の語気だった。
だが、ハールーンは気にしていない様子だった。
「心外だなぁ、私は『灯火の』、としか言ってないよ?
学者だと誤認したのはあっちだぜ?」
「またそうやって責任転嫁……いい加減にしないと、モイスから追い出しますよ‼️」
ハールーンは諦めた様子で言った。
「はいはい、今後気をつけますよ、ファーガル先導師。
それじゃ、何かあったら呼んで下さい」
そう言ってハールーンは部屋を出ていった。
「ちょっと‼️ ハルさん、どこに……ああもうッ‼️」
ファーガルは慌てて後を追ったが、ハールーンはどこかへ消えてしまったようだ。
ファーガルは深いため息をつくと、キアンとリズの視線に気づき、再び頭を下げた。
「本当にすみません、キアンさん、リズ学師……‼️」
「いやいや、どう見てもファーガルさんが悪いようには見えなかったよ……?」
リズがそう言うと、ファーガルはまた、ため息をついた。
「いえ、預かっているのは我々『灯火』ですから、結局私達の責任です……本当に申し訳無い限りです」
「ファーガル先導師、あの方は何なんですか?
少なくとも『灯火』の学者ではないようですが……?」
「その通りです、キアンさん。彼はサッチ王国の『元科学者』なんです」
「ええ⁉️」
キアンの気持ちを代弁するように、リズは大きな声で驚いた。
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