18話 『ウラン』

 数日後、リズの研究室に仰々しい箱が届いた。

 送り主の名前は『ミオ・カリガライン』。

 事前にもらっていた連絡通りである。

 リズは少し緊張した面持ちで、箱を開いた。

 中に収められていたのは――あの弾丸だった。


「届きましたか?」


 リズが顔を上げると、いつの間にかキアンがいた。

 左目にはまだ包帯が巻かれている。


「動いて大丈夫なの?」

「ええ、身体に異常は無いので。ただ、長時間の勤務はまだ許可が降りていません」

「最後の言葉なにー? 私への牽制?」

「まさか。ただ、伝えただけですよ」

「そう? それじゃ、この弾丸見てもらえる?」

「…………」


 こうなるだろうと、キアンは予想していた。

 別に拒否する理由もないので、かけていたサングラスを取り、箱に収められている弾丸を見つめた――

 そして、次に『ゴールデン・レコード』を見つめた――


「……やはり、同じですね。

 細かい部分では異なりますが、この弾丸と『ゴールデン・レコード』の組成はほぼ一緒です」

「ふう……やっとここまで来たね」


 リズは、力が抜けたように、椅子に座った。


「まだまだこれからですよ。材質が分かっただけです」

「そうだね。

 模様の解析もあるし、溝だらけの円盤の意味も調べないといけない……まだまだやることいっぱいだぁ」

「とりあえず、この『不明』の成分について、名前をつけませんか?」

「だね。キアン君、名前つけていいよ」

「私がですか?」

「そりゃもちろん。見つけたのは君の功績でしょ?」


 理のある説明であったが、キアンは急に緊張してきた。

 未発見の成分に名前を付けるなどというのは、大変名誉なことだからだ。

 今後この成分が必要に鳴る場面で、その名前が必ず使われる――

 研究者としてこれほど嬉しいことはない。


「……明日でもいいですか?」

「ダメ。今すぐお願い」


 ――ですよね


 答えに苦悩しているキアンを見て、リズは言った。


「キアン、でいいじゃん」

「え」

「発見者の名前を付けるなんて定番だよ?」

「いやそうですが……」


 ――恐れ多すぎる……

 ――自分は天盤学において、平凡な研究者

 ――そんな自分の名前を冠していいものなのか……?


 悩むキアンを呆れた様子でリズが見ている。


「……キアンにしとくね」

「あ、ちょっと‼️」


 慌ててキアンが、リズの手からペンを取り上げた。


 すると――


「申し訳ないけど、その成分の名前は『ウラン』って言うんだよ」


 その声と同時に、扉が開いた。

 入ってきたのは――見知らぬ糸目のエルフの男だった。


「……どちらさま?」


 リズは問いかけた。

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