14話 呪いが呼び寄せた最悪

 山を超え、草木をかき分け歩く一行。

 ついに、旧ゴールウェイ王国についた。


 だが――


「……ここであってるよね?」


 リズは不安な様子でキアンに問いかけた。


「間違っていません……」


 ニーヴも驚いた様子で声を上げた。


「ですがこれは……」

「……消えてる」


 眼の前に広がっていたのは、巨大な窪み。

 辺りを削り取られ、下へ下へと大きく掘り進んだような更地になっていた。

 建物も、木も、何もかもが無くなっていた。

 そのあまりにも異質な光景に、三人は固まってしまった。

 理由は様々。


 まず、ニーヴの驚き。


 旧ゴールウェイ王国は山間にある国ではあるが、現在はオーウェン共和国の管轄内。

 『呪い』の件もあり、警備や巡回が薄かったことは認めるが、ここまで大規模な工作を許すほどのオーウェン共和国の警備は甘くない。


 なのに、この状況は何故起きているのか。


 次に、キアンの驚き。


 聞いていた光景とあまりにもかけ離れた現実。

 そして、なにより驚いていたこと――

 それは、『不明』と評した成分が見当たらないこと。

 自分の目の能力を疑った。

 何か自分が知らない能力の制限が存在していたのかと。


 しかし、今になって新しい制限に気づくのか――?


 そっちのほうが可能性が低い。


 だから――


 つまり、『不明』という成分はそこに存在していないということになる――


 一体どうなっているのか――


 そして、最後にリズの驚き。

 大半はニーヴとキアンの驚きと同じではある。

 しかし、リズは更に先の驚きと、不安を感じていた。


「……とにかく、下に降りよう」


 リズの言葉で、やっとキアンとニーヴは我に返り、一行は巨大な空洞に近づいていった。


 近づいてみると、その巨大さはより際立った。

 広さは、旧ゴールウェイ王国全体。

 深さは、天盤学院が屋根まですっぽり入るほど。


「下まで降りて確認してみたいけど……ちょっと危険すぎるか……」


 リズが下を覗きながらそう言う。


「私はいち早くこの場から立ち去ることを提案します」


 キアンの発言に、ニーヴも即座に同意した。


「私もキアン殿の提案に賛成です。ここはもう安全な場所ではありません。

 この異常な状況は軍部も把握していないはずです。直ぐにブリトンに戻りましょう」


 二人の言い分は十分にリズも理解できた。

 ここはもう安全ではない――その通り。

 だが、ここまで来たのに成果無しというのは、あまりにも……


 …………


 いや、戻ろう。

 だが、一つだけ確認をしよう。


「うん分かった、戻ろう。でも、一つだけキアン君にお願い、いいかな?」

「なんでしょう?」

「空洞の底……とりあえず地面全体を、目で見てくれる?」

「さっき見てみましたが、私が見たというあの『不明』の成分は……」

「じゃぁもう一回だけ、お願い‼️」


 リズは頭を下げてキアンにお願いする。

 リズが頭を下げてお願いするなど、あまり見ないことだった。

 それだけ、何か重要なことなのだと察した。


「わかりました」


 そう言い、キアンはサングラスを取った。


「お早めにお願いします」


 ニーヴは先程から今まで以上に辺りを警戒していた。

 異常を察知してからの即行動、流石軍人である。

 キアンは、空洞の底を見つめる。


 見える成分はやはり変わらない。


 土の組成――


 岩石の組成――


 細かな違いはあるが、それ以外に目立ったものは見当たらない。


 だが、そんな場所を誰かが掘って、削り取るだろうか……?

 謎ばかりが残る。


 と、何かが動いたのが見えた。

 黒い形のした何か。

 動物?

 それは、長い棒のようなものを構えていた。


 これは――

 動物ではない――影だ。


 キアンは瞬間的に、影の位置を割り出した。


 時間――

 太陽の高さ――

 物体の位置――


 それは――先ほど自分たちがいた、小高い場所。


 真後ろだ。

 咄嗟に振り向いた。

 すると、ニーヴも気づき振り向いていた。


 そして、見上げる。


 逆光。


 ハッキリとは見えない。


 だが、やはり何かを構えている。


 それが――ライフルだということに気づいたのは、すぐだった。


 目標は――リズ学師かっ‼️


「リズ様‼️」


 ニーヴは叫び声と同時に、鋭い銃声が響いた。


 銃声が聞こえ終わる前に、ニーヴは対魔障壁と対物障壁を展開した。

 オーウェン共和国軍部で推奨されている最も効果的な対応。

 魔法加工の銃弾も、対魔障壁対策用の銃弾も、全て防ぐことができる。


 はずだった――


 銃弾は、対魔障壁を貫通――


 そして、対物障壁をも貫通――


 動体視力に優れるダークエルフのニーヴには、それらが全てハッキリと見えただろう。


 自分の横を通り過ぎ、銃弾は一直線に進む。


 リズを目指して――


 最悪の結末がニーヴの頭をよぎった――瞬間。


 リズは突き飛ばされた。


 キアンの手によって。


 そして銃弾は――


 キアンの目を貫いた――

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