13話 全ての答えはゴールウェイにある

「魔法でないのに、住民が次々死んだというのですか?」


 ニーヴが驚いた様子でキアンに聞いた。


「あまり語られていない部分ではありますが、『ゴールウェイの呪い』の中身は、嘔吐、脱力、視力の低下、体の不調、そして早死です。

 歴代の王はこの『呪い』を解くためにあらゆる魔法を使い、あらゆる方法を行いました。あるときには大規模な魔法陣を敷いてみたそうですが、解決しなかったそうです」

「そして、これが『呪い』ではないと気づいたわけね」


 リズの呟きに、キアンは頷いた。


「気づいたのは最後の王……つまり、私の父でした」

「お父様の見解とかは聞いてないの?」

「父は、母を国外で住むように命令した以外は、何も喋らなかったそうです」

「うーん……やっぱりお父様も『魔法』や『呪い』ではないと気づけても、『何が』原因かは分からなかったのかな……?」


 リズが答えを思案していると、隣にいたニーヴが怯えていることに気づいた。


「……大丈夫、ニーヴさん?」

「あ……すみません。得体の知れない何かがあると思ったら、途端に怖くなってしまって……」


 軍人であり、副司令官にまで上り詰めたニーヴ。

 そんな彼女ですら、この話の異質さが理解できてしまっている。


「まるで……サッチの大虐殺と同じです……」


 リズは彼女の恐怖の根底を察した。


 ――この世には、いくつもの理が存在する

 ――生と死

 ――時間とは絶対である

 ――天には月と太陽が交互に登る

 ――普遍的で不変的な理があるからこそ、私達は迷わないし、前に進んでいける

 ――特に死は、『魔法』か『外的致命傷』、『病気』、『寿命』以外で起きるわけが無いと思っていた

 ――現在も思っている

 ――だが、ゴールウェイに向かえば、どれにも当てはまらない『死』が待っている

 ――理解不能な死

 ――まさに、サッチの大虐殺と同じような死

 ――そりゃ、怖いよね

 

 会話は途切れ、ニーヴもキアンも不安がっているのが分かった。


「大丈夫、『呪い』の正体はなんとなく予想できてるよ」


 リズは、二人を元気づけるようにそう言った。

 キアンは驚いたように聞く。


「……本当ですか?」

「うん、だいたいね」

「聞かせて下さい」

「キアン君」

「はい」

「君が知ってる」


 ――……はぁ?

 声には出さなかったがキアンは心の中でそう思った。

 これは、予想できているとは言わない。


「あの……どういう意味ですかそれ?」

「まず、『ゴールウェイの呪い』はゴールウェイに住んでいると呪わる」

「はい」

「すぐ隣のオーウェン共和国なら呪われない」

「はい」

「オーウェン共和国は歴史的に見て、法則や原理が大好きで、あらゆる発見を書き留めてきた。『天の数ほど盤に刻む』……故に天盤学」

「えっと……話がズレてませんか?」

「うん、ここから本題。そんなオーウェン共和国の天盤学を学び、記憶し、学師の助手にまでなった君が、知らないものがあったよね?」

「……『ゴールデン・レコード』の成分ですね」


 リズは指を鳴らした。


「さてさて、話を整理しよう。

 この物語の始まりは『ゴールデン・レコード』の成分解析。

 この成分は天盤学には存在せず、知っているのはキアン君だけだった。

 キアン君が見たと思うというのは、幼少期。

 幼少期に一度、ゴールウェイに行って、その時見たんだろうと予測。

 ゴールウェイといえば、ゴールウェイの呪い。

 摩訶不思議な死が蔓延し、解体された国……」


 リズはニヤリと笑い、キアンを見た。

 キアンは、何を言いたいのかがハッキリと分かった。



「『ゴールウェイの呪い』と『ゴールデン・レコード』が関係している……?」



「そう。つまり、『ゴールデン・レコード』の成分は、『ゴールウェイの呪い』かもしれないってこと」



 キアンとニーヴは背筋がゾクリとした。

 それが恐怖心だったのか、好奇心だったのかは分からない。

 しかし、これで腹は決まった。


「……ゴールウェイに行くしかありませんね」


 キアンは少しだけ、ほんの少しだけ力強く言った。


「そ、全部答えはゴールウェイにある。『ゴールウェイの呪い』も『ゴールデン・レコード』も、全部丸ごと解析しちゃおう‼️」


 キアンとリズとニーヴ、三人は再びゴールウェイへと足を進めていった。


 不安が無いわけではない。


 恐怖が無いわけではない。


 しかし、行くしか無い。


 『サッチの大虐殺』も――


 『ゴールデン・レコード』の正体も――


 『ゴールウェイの呪い』の真実も、全てはゴールウェイにあるのだから――

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