12話 呪いの正体

 リズとニーヴは、キアンの次の言葉を待っていた。

 キアンは、少しばかり気恥ずかしそうにしながら、自身の過去について話し始めた。


「ゴールウェイ王国が滅ぶ前、当時の王は九人の子供をもうけたそうです。私はその九番目の子供です。とはいえ、私が生まれる頃には、ゴールウェイ王国は解体が決定していたので、ゴールウェイ王国で過ごした記憶はありません。生まれもオーウェン共和国ですしね」

「それじゃ、キアン君が言ってた『昔見た』っていうのはどういうこと?」


 リズが言っているのは、キアンが『ゴールデン・レコード』を解析した時に言った言葉。


『昔見たんだと思います』


 この発言の真意についてだ。


「私が生まれて間もない頃、葬儀に参列するために、一度だけゴールウェイ王国に入ったと、母から聞きました。見たのはその時だと思います」

「一度だけ?」

「そう聞いていますね」

「…………ちょっと突っ込んだ話になるけどいいかなキアン君?」


 リズの気遣うような言葉に、キアンは驚いた。


「はい、なんでしょう」

「一般的、一般的にね」


 リズは前置きをし、話を続けた。


「君が王の息子なら、普通他国で生まれないし、国に戻ったのが一回だけっていうのは不思議なんだよね」


 その通りだ。

 古今東西、あらゆる国が生まれ、滅んだこの世界。

 このような不思議な状況に陥ったのは、資料が残っている限り、ゴールウェイ王国が初めてだった。

 キアンも幼少期にその疑問を抱いた。

 そして、母親に質問し、答えを得ていた。

 その答えがまさに――


「つまり、君の不思議な出自については、『呪い』が関係しているってことなのかな?」

「その通りです。私がゴールウェイ国外で生まれた理由は、『ゴールウェイの呪い』から遠ざけるためと、母から聞いています」

「そうなるよねぇ」


 その答えはリズの予想通りだった。

 しかし、疑問は尽きていない。

 それは、ニーヴも同じだったようだ。


「その土地から離れれば呪われないというのは、少し不思議な魔法ですよね……」

「あ、やっぱりニーヴさんもそう思う?」


『呪い』は『魔法』の一種である。


 通常『魔法』は一定の教育を受ければ、個人の技量により自由に発動できる代物。

 それが『魔法』。


 では『呪い』とは何か。


 『呪い』とは、発動の条件を幾重にも縛ることで、強力な魔法を生み出す技術である。


 例えば、電撃を与える魔法を、通常の教育課程で学ぶ順に強化していくと、最上位の電撃魔法を生み出すには、相当な教養と技量が必要になる。


 故に、『宮廷魔法学師』という最難関職業があるわけだが――


 『呪い』という技術を使えば、最上位の電撃魔法は、小さな子供でも簡単に生み出せるのだ。


 結果だけみれば、すごい。


 しかし、実際は発動の条件が二〇〇にも三〇〇にも縛られており、何百年経とうが発動しない『呪い』が生まれただけ――

 

 つまり、『呪い』という技術は『発動条件をどこまで縛るか』が重要なのであり、『発動条件』を解析すれば、『呪い』の正体が見えてくるのだ。


 リズは、キアンに確認をする。

「覚えている範囲だけど、『ゴールウェイの呪い』は、『ゴールウェイ王国に住んでいるものはみんな死ぬ』って呪いだったよね?」

「そうです」


 リズは少し考え、こう切り出した。


「これは仮説だけども――」


 そして、こう続けた。


「実は――誰もその『呪い』を確認できてないんじゃないの?」

「え?」


 リズの発言に驚いたのはニーヴだった。


「でも、『ゴールウェイの呪い』って言われてということは……」

「うん、多分これは言葉の綾だよ。

 『魔法』として確認できない場合、次に考えられるのは『呪い』だから、単純に紐づけしちゃったんだろうね」

「それは流石に飛躍していませんか……?」

「今のところ都合の良い情報だけを繋ぎ合わせてるからね。

 かなりテキトーな仮説だよ。でも――」


 リズはキアンを見た。


「キアン君が『呪い』のことを『忘れていた』って言う意味は、こういうことなんじゃないかな?」


 リズは、答えをキアンに求めた。

 その期待に満ちた目に押されるように、キアンは答えた。


「流石リズ学師ですね」

「お?」


「『ゴールウェイの呪いは、魔法ではない』、私が母から聞いた言葉です」

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