11話 旧ゴールウェイ王国

 そして翌日、オーウェン共和国の行政府である『全種連』から、サッチ王国で起きた悲劇の大虐殺について、伝えられた。


 アジル王国でも――

 モイス共同体でも――


 ほぼ同じ内容が伝えられた。



『ゴールデン・レコード』については、どこも伝えることはなかった。



 同じ頃、リズの下には旧ゴールウェイ王国への立ち入り許可が下された。

 早速リズは荷物をまとめ、キアンを連れて、旧ゴールウェイ王国区域へと、調査に向かった。


 朝早くに天盤学院を出て、太陽は既にてっぺん。


 首都ブリトンを離れ、まだそこまで時間が経っていない頃。

 キアンは、リズに質問することにした。

 奇々怪々なこの状況を――


「リズ学師」

「うん?」


「……本当に二人だけですか?」


 調査へ向かうチームは、なんとリズとキアンだけだったのだ。

 こういう現地調査を行う場合、次回の調査許可が降りない可能性を考慮し、大規模な調査チームを作り、一度で全ての疑問を解決できる体制を整えるのが通例。

 しかし、調査ができるような人数も、機材も、何一つ持っていない。

 渡されたのは、飲み物と医療用キットが入ったカバンだった。


 これじゃ、ほぼピクニックだ。


 この異常な状況の説明をして欲しいキアンなのだが――

 リズはいつもの調子だった――


「もう、さっきも紹介したでしょ? 今回は護衛としてニーヴさんが同行するから三人だよ」

「道中の安全はお任せ下さい」


 先頭を歩く軍服の女性、ニーヴ・モナハンは辺りを警戒しながらそう言った。

 キアンは、自分の言葉が足りなかったと反省し、再度リズに問うた。


「……すみません、調査チームが二人なんですかって意味で聞きました」

「あ、そっちね? そっちは、うん、二人だね」

「なんの調査ができるって言うんですか」

「キアン君が言ってた成分が見つかったら、帰る感じになるだろうねー」


 ――それはもう、散歩です


 キアンは途端に頭痛がしてきた。


「私の目だけで判断しちゃダメでしょ……もっとちゃんとした機材や研究を経て、確かな答えを出さないと……」

「私もそうは思うんだけどねー。許可が降りなかったんだよねー」

「……もうちょっと頑張って下さいよ」


 その言葉を聞いて、先頭を歩いていたニーヴは、リズを庇うように喋りだした。


「リズ様はかなり努力されていました。

 大規模な調査チームの結成と派遣、機材の持ち込みなど、短期間で大きな成果を得られるように、建設的な提案を多くして頂いたのですが……」

「場所が旧ゴールウェイ王国区域だからダメだって言ってさー。

 んじゃ、もうこの国出てってやるーって拗ねてみたら、ニーヴさんの護衛付きならってことで、キアン君の同行も許可出たんだー」


 リズは長い枝を振り回しながら、そう言った。


 ――完全に駄々をこねる子供だ


 だが、それを言ったのは、天盤学師、リズ・アスロン。

 この国、この世界最高峰の頭脳の持ち主なら、上の人間も聞くしか無いのだろう。


「わがまま言えば聞いてくれるならさ、調査チームの結成くらい許可してよねーって思うよねー。

 あ、なんなら全権私にくれーって言えば良かったかなー?

 そのほうが効率的で早いかも」


 リズは笑いながらそういうが、キアンとニーブは全然笑えなかった。

 子供っぽい発言は子供が発言するから笑えるのだ。

 大人が言うと――怖い。


「流石に『ゴールデン・レコード』のことがありますから……」


 ニーヴが苦笑いしながらそう言うと、キアンはふと疑問が湧いた。


「ニーヴさんは、『ゴールデン・レコード』のことを……?」


 キアンは探るように聞いた。

 もし間違えていたら、大ぽかだ。


「『ゴールデン・レコード』のことについては、既に承知しております。最初にミオ司令官と共に発見したので」


 ああ、良かった――


「なるほど。内部でもちゃんと知る必要がある人たちには認知されているのですね」

「そうですね。ですが、誰も関わりたくない様子ではありますが……」

「そうなんですか? 何か理由があって?」

「まぁなんというか……旧ゴールウェイ王国の扱いと似ていますね」


 それを聞いてキアンは納得した。

 旧ゴールウェイ王国と同じ扱い――


『ゴールウェイの呪い』のことだと理解した。


 その話を聞いていたリズは、あることを思い出したようだった。


「そういえばキアン君」

「はい?」

「この前のこと教えてくれない?」

「……えっと?」

「『呪い』のことを『忘れていた』ってやつ。あれ、どういう意味?」


 ――まさか覚えていたとは


 キアンはわざと惚けてみせたのだが、相手が悪かった。

 流石は天盤学師。


「そもそもだけど、名字がゴールウェイだもんね。

 何か関係あるの? あ、もしかして末裔とか? 隠し子?

 普通に後継者だったとか⁉️」


 全く物怖じしないリズに、ニーヴがオロオロとしていた。


 普通なら躊躇することだと思う。

 明らかに本人の過去に関わる話であるし、その本人はすっとぼけようとしている。

 つまりは『喋りたくない』という所作。

 だが、リズにはそんなこと関係ないのだ。

 『分からないことを知りたい』


 ――単純な探究心を持ち続けているからこそ、彼女は天盤学師に慣れたのだろうか


 キアンはそんな事を考えながら、観念したように喋りだした。


「……お察しの通り、私はゴールウェイ王国の跡継ぎでした」

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