8話 調査開始

 そうしてリズは『ゴールデン・レコード』の解析作業に入ったのだが――


 やはり一筋縄ではいかなかった。

 リズの大きなため息が、「アスロン研究室」から聞こえてきた。


「……流石の私でも、手がかり無しから調べるのは難しかったかー……」


 ハーブティーを飲みながら、リズは机に置かれた『ゴールデン・レコード』を見つめた。


「……喋ってくれたら、どれだけ楽なんだか」


 完全に無茶振り。

 だが、そんなことも言いたくなるくらい、手がかりがないのだ。


「まぁいいや、まずは分かっていることだけ書き出そう」


 そう言ってリズは、近くの板を手に取り、ペンを走らせた。



 『一、ゴールデン・レコードは二つある』


 リズが最初に調べていて気づいたのがこれだった。

 『ゴールデン・レコード』と呼ばれるその円盤は、二つに分離することができた。

 それは、ナイフを収める袋のような関係なのだと、リズは推測した。



『二、模様だらけの円盤と、溝だらけの円盤』


 二つに分離した円盤は、それぞれ違う役割があるようだった。

 片方の円盤には、いくつもの模様があしらわれていた。

 だが、一つとして同じ模様はなく、全てが独立しているように見えた。


 ――何か関係性があるのか?


 逆に、もう片方の円盤は分かりやすい。

 中心には穴が開けられ、外側に向けて溝がぐるりと、何個も何個も掘られている。

 リズが驚いたのは、その溝の狭さと小ささだった。


 ――こんな精密な作業、見たことがない。



『三、大きさは三〇』


 円盤の端から端の長さ。

 どうでもいいような情報ではある。

 だが、大きさには時に意味を持つこともある。


 ――意外と今後重要になるかも。


 

 リズはペンを置いた。

 これだけしか分からないのである。


「うーん……あとは円盤が何で出来ているか調べたいけど……壊れそうで怖いなぁ」


 円盤の表面はピカピカと輝いていおり、金の輝きに似ていると感じた。

 だが、それにしては軽いとも思った。

 この『ゴールデン・レコード』を作るに辺り、何を素材にして作成したのか……。

 それが分かるだけで、話が少しは変わってくる。


「まぁ、方法が無いわけじゃないんだけど……あとは許可がねぇ」


 そう言いながら空のティーカップに再びハーブティを注いでいると、部屋をノックする音が聞こえてくる。

 リズはいつもの調子で返事をした。


「はぁいぃー」


「お届け物です」


 声の主は、男のようだった。


「どこからー?」


 その返答に、男は困惑しているようだった。


「……ご自身で確認しては?」

「差し出し人だけ教えてよー」

「ミオ・カリガライン……お兄様からですね」

「うん、やっぱりね」

「……やっぱり?」

「入ってきてー、キアン君」

「……いいんですか? 数日前から立ち入り禁止だったはずでは……」

「もう大丈夫だから、入ってー」


 扉が開き、入ってきたのはキアン・ゴールウェイ。

 大きなサングラスと尖った耳が特徴的なエルフ族。

 リズと同じく天盤学を修める研究者で、リズの補佐的存在である。

 キアンはキョロキョロと落ち着かない様子で研究室を見渡していた。

 そして、リズの眼の前に置かれた円盤に目が留まった。


「……これは?」

「その前に、手紙もらえるー?」

「ああ、すみません」


 キアンが手紙を渡すと、リズは素早く中を確認した。


「うんうん……流石お兄ちゃん、もう許可取ってくれた」

「お兄様からはなんと?」

「ほらみてー」


 リズは嬉しそうに手紙を見せてきた。

 そこには『調査研究チームの発足を許可する。人事はリズ・アスロン学師に一任する』と書かれていた。


「……おめでとうございます」


 キアンは、そう言うしかなかった。


「そして、キアン君はその調査チームの主任研究員に任命します‼️」

「……ありがとうございます」

「あ、室長は私ね?」

「はぁ……」


 沈黙が研究室を包む。


「……なんか反応薄くない?」

「そう言われましても……何がなんだか分からないので」


 そう言われてリズは、何も説明していなかったことに気づいた。


「ごめん、ごめん。いろいろすっ飛ばしてたー」


 そう言って、リズが手に取ったのは――あの円盤。


「これの調査をします」

「ずっと気になってたんですが、それなんですか?」

「これはね、『ゴールデン・レコード』って言うみたい」

「『みたい』とは?」

「うん、やっぱりキアン君は鋭いねー」

「……それはどうも」

「じゃぁ、ちょっと長くなるけど経緯を説明するね。

 あ、今後人員が増えていくと思うけど、その時の説明はキアン君よろしくね‼️」

「……頑張ってみます」


 リズは今までの経緯と、『ゴールデン・レコード』について説明を始めた。

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