7話 家族の絆と命の天秤
「……なにそれ?」
「分からん」
ミオの返答に、リズは驚いて円盤を手から離した。
円盤が、机の上でグワングワンと回っている。
「正気⁉️」
「……何かまずかったか?」
キョトンとする兄に、リズは深くため息をついた。
「良く分からないものは、その場から動かしちゃダメなんだよ?
毒があったり、壊れる可能性があるんだからさ……
まったく……やっぱり軍にも研究班を付けておくべきかなぁ……
せめて一人二人学者がいればヤバいことには……」
ブツブツと言いながら、リズは手袋をつけて再び円盤に触れた。
――実は、結構ベタベタ触っていて、なんなら最初に手に取ったのは自分だって言ったら怒るかな。
ミオは少し考え、そのことは胸のうちに留めておくことにした。
「それで――これってどこから出てきたの?」
リズは円盤を観察しながら聞いてきた。
「サッチ王国内にあった」
「へぇ、サッチの人達って面白い物を作ってるんだね」
「どうやら、作ったのは彼らじゃないらしい」
「……え?」
硬直するリズ。
ミオの眼差しは、冗談を言っている雰囲気ではなかった。
リズは、改めて聞くことにした。
「……そもそもだけど、一体何があったの?」
「ああ、一から話す。ただ、公式発表は先だから、誰にも漏らさないようにな」
リズは緊張した面持ちで頷いた。
ミオはサッチ王国で何が起きたのかを詳細に説明した。
――虐殺事件
――原因不明
――カシームの死
――意味深な遺言
――ゴールデン・レコード
リズは、驚きながらも、全てを理解しようと耳を傾けてくれていた。
「なるほど……知らない間にすごいことが起きてたんだね……」
リズは、残っていたハーブティを口につけた。
「それで――ここからが本題になる」
「うん、そうだよね。まだ経緯しか聞いてない」
「アジル王国、モイス共同体、オーウェン共和国は、原因究明には、解析をするしかないと結論付けた」
「このゴールデン・レコードを……ってことね?」
ミオは頷いた。
「だが、一筋縄でいかないことは確定している」
「手がかり無しだもんね。
そもそも、この円盤が何でできているかも分かるかどうか……」
「だから、三国はこの大陸で最も知性に長け、天賦の才を有している者にこの解析を依頼することにしたんだ」
ミオはそう言って、リズを見つめた。
リズはカップを置き、ミオを見つめた。
「それが、私ってことね?」
「ああ……すまん」
ミオの謝罪は、意図せず出たものだった。
流石のリズも、驚いていた。
「……な、なんで謝るの?」
「いや……性急に決まったこととは言え、確認を取るくらいはするべきだったなと……」
「あはは、それは無理でしょお兄ちゃん。
外に漏らした時点で、お兄ちゃんが処分されちゃうよ?」
――確かに
リズに指摘されてミオは、自分自身の本心に気づいた。
謝った理由はそこではない。
本心は――こっちだ。
「お前を危険な目にあわせることになって……すまん」
ミオは深く頭を下げた。
――リズに調査をお願いすれば、解決するかもしれない
三国は――などと前置きをしたが、この作戦は、ミオが提案したものだった。
今までも、何度か手伝ってもらい、解決したことがたくさんあった。
今回もその感覚で、反射的に提案したのだろう、自分は。
だがよく考えれば、今回はいつもと話が違う。
原因不明、全てが謎、不穏な遺言――
そして、全ての元凶『ゴールデン・レコード』。
本人の意志を無視して、勝手に決めて良い案件ではない。
家族だと言うのに、自分はなんて冷酷なことをしたのだろうか。
ミオは自分のことを恐ろしく思った。
「お兄ちゃん、頭を上げて」
ミオが頭を上げると、リズはニコリと笑っていた。
「別に何も怒ってないよ、私」
「いや、断ってくれても構わないんだ。
選択権はお前にある。誰かに強制されるべきじゃない、こんなこと……」
「例え強制じゃなくても、私は受けるよ」
「もっと良く考えてくれ。この円盤の解析によって何が起きるか……
リズは頭が良いからきっと分かるはずだ。どれだけこれが危険なことか……」
「うん、確かに危険かも。だってこの円盤のせいで、一つの国が滅んだんでしょ?」
「だったら……‼️」
「でも、受けるよ。むしろ、嬉しい」
リズは満面の笑みでそう答え、話を続けた。
「お兄ちゃんはいつも私を守ってくれてた。
小さい時も、パパもママも死んじゃった時も、ずっと私の傍にいてくれて、ずっと守ってくれてた。
だから、いつかは私がお兄ちゃんを守ろうって決めてたの‼️
それが、ついに来たんだって、私は思ったんだ」
「リズ……」
「だから、謝らないでお兄ちゃん。私は喜んでその命令受けるよ」
リズの意志は固い。
だが、その意志を引き出してしまったのは、自分だ――
リズの意志は否定はしない――
ここからは兄として――家族としての責任を全うする。
「……分かった。上層部には俺から連絡しておく。
何か足りなければ言ってくれ、すぐに手配する」
「うん」
「それと……もし、危険が迫っていたら、直ぐに連絡してくれ……
いや、連絡が無くても直ぐに行く。もし何かあっても、必ず助ける。だから……」
「うん、いつもと一緒。待ってるね」
そう答えるリズの顔は、やはり昔と変わらない。
両親を失った時と同じ――
夜遅く帰ってきた自分を出迎えてくれた時と同じ――
気丈に振る舞い、兄を気遣う健気な妹の笑顔――
――俺には、この笑顔を守る義務がある
ミオはそう決心した。
「それじゃ、俺は職務に戻るから、解析頑張ってくれ」
「うん、任せて‼️」
リズとミオは抱き合った。
なんの変哲もない別れの挨拶。
だがこの時だけは、別の意味が少しだけ含まれていたのかもしれない。
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