6話 天盤学師 リズ・アスロン
部屋の中に入ると、多くの書物と多くの魔導書が散乱していた。
壁に立てかけられている板には、膨大な数式と図解が描かれている。
全ての壁に。
「また何か大きな仕事か?」
ミオは経験則からリズが何をしているのかを推測した。
「そうなんだよー。今度は全都市との連絡手段を整備して欲しいって言われてさー」
「手紙じゃダメなのか?」
「ねー? そう私も言ったんだけど、どんなに離れても、眼の前で会話してるくらい早い手紙が欲しいんだってさー」
と、リズは恨み節を言いながら、ハーブティを口に含んだ。
「上手くいってないみたいだな」
「そう思う?」
思わぬ返答に、ミオは少し驚く。
「部屋が荒れてるからそう思ったが……違うのか?」
リズはニヤリと笑い、わざとらしく指を立て、左右に振った。
「私を誰だと思ってるの? 天盤学師、リズ・アスロンだよ?」
学師とは、『その学問の師』という意味の肩書である。
つまり『この学問において、この方は最も優れています』というのを国が認めているということなのだ。
リズは手近な板を手に取り、そこにペンを走らせた。
「私が考えたのは、光に情報を乗せて情報を交換するやり方……名付けてクリスタル衝撃光伝送‼️」
リズは、大きな塔を二つと、浮遊する鉱石の絵を書いた。
ギリギリ分かるくらいの絵だった。
ミオは何か言おうと思ったが、リズの喋りのほうが早かった。
「情報を伝送する都市間に高い塔を立てて、衝撃を与えると光るクリスタルを頂上に付けるの。
そして、送りたい都市に向かって光を発射し、もう一方が受け取る……すっごく単純でしょ?」
ミオは、良く分からなかったが、妹が言うからには多分簡単なのだろうと思った。
だが、一つ疑問が浮かんだ。
「光を発射して受け取るって言ったが、それって可能なのか?」
子供のような質問をしたつもりだった。
だが、リズの顔は一瞬にして歪んだ。
「理論的にはね……でも全然それが上手くいかないの……塔が高いと上手く掴んでくれないんだぁ……」
「じゃぁ、低く……ってそうか、低いと他の建物にぶつかるのか」
「そうなの。だから今は適切な高さを探してるんだけど……
それでもまだ上手くいかないんだよねぇ……何が足りないんだろう」
「……上手くいってたんじゃなのか?」
「カッコつけたかったの‼️ いいでしょ別に‼️」
リズは、子供っぽく下を出して見せた。
『天盤学師』という最高位の職についても、リズはいつものリズのままだった。
それが分かって、ミオはとても嬉しく思った。
「って、違う違う‼️ 私の話じゃなくて、お兄ちゃんの話だ‼️」
「ああ、そうだった……」
リズに指摘されて、ミオは自分の用事を思い出した。
「これを調べてもらうことは可能か?」
ミオは、手に持っていた袋を机の上に置いた。
「……この袋?」
「いや、中に入っている」
リズは恐る恐る袋の中を覗く。
だが次の瞬間、その緊張感は緩んだ。
袋の中に手を突っ込み、取り出したのは――
あの円盤――
「ピカピカしてるけど……」
「ゴールデン・レコードだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます