5話 原因究明への一手

 虐殺事件が世界を駆け巡ってから数日後。

 何十回目かの三国会議では、この虐殺についての結論が出ようとしていた。


「原因不明……というしかありません」


 そう伝えるミオの顔には、疲れが色濃く出ていた。


「書類も燃やされ、目撃者は全員死亡、唯一残ったのはこの黄金の円盤だけ……か」


 サラは中央に置かれている黄金の円盤『ゴールデン・レコード』を手に取り、訝しいげに眺めた。


「このまま本国に帰ったら我々は降格処分でも受けるかね? どう思うザイード」


 サラは重苦しい空気を変えようと、冗談交じりにザイードには話しを振ったが――


「……カシームに合わせる顔が無い……すまない、カシーム……」

「……ダメだこいつら」


 全員が現在の状況に疲れ切っていた。


 とは言え、全く進捗がないわけではない。

 外部的な混乱は徐々に治まり始めている。


 サッチ王国の領土は、オーウェン共和国、アジル王国、モイス共同体の三国が共同で統治し、将来的に独立させることを約束した。


 少しずつではるが、世界は落ち着きを取り戻そうとしている。


 だからこそ、現在の調査結果には不満が残っているのかもしれない。


 今分かっているのは黄金の円盤、『ゴールデン・レコード』の存在と、カシームの遺言のみ。


 それ以外は、隅から隅まで調査しても、何も分かっていない――


「とは言え、もう打つ手はないしなぁ」


 サラは持っていた『ゴールデン・レコード』を回しながら言った。

 ミオはその様子をジッと見つめていた。


 ジッと。


「……どうしたミオ?」

「……打つ手、あるかもしれません」

「お?」





 翌日、三国会議は閉じ、現地の調査は完全に終わることが決定された。


 サラはアジル王国へ戻り、ザイードはモイス共同体へと戻り、それぞれ報告を行っているだろう。


 当然、ミオも同じことをこれから行うことになる。


 向かった先は、オーウェン共和国の首都ブリトン。

 大陸内でも屈指の発展を遂げているオーウェンの中でも、ブリトンは羨望と憧れの目で見られている。


 理由は様々あるが、なにより出自・人種による階級制度が皆無なこと。

 この世界にある多くの国々では、基本階級制度や、身分制度が存在している。


 制度の良し悪しはさておき――


 オーウェン共和国は幅広い才能を発掘しようと考えた。


 結果、首都のブリトンでの身分、階級による差別が撤廃された。


 成果は以下ほどか?


 それは、オーウェン共和国が誇る技術機関『天盤学院』を見れば一目瞭然である。


 そこは、今からミオが向かう場所でもあった。

 天盤学院に着くと、ミオは足早にある場所へ向かった。


 とある部屋のドアをノックする。

 その部屋には『アスロン研究室』と書かれていた。


「はぁいぃー」


 不思議な発音の返答が、部屋から聞こえてきた。


「入って大丈夫か?」

「あれ⁉️ も、もしかしてその声……‼️」


 中から走って近づいてくる音が聞こえ、勢いよくドアが開いた。


「お兄ちゃん‼️」


 出てきのは小さな耳と尻尾が付いた獣人、リズ・アスロンだった。


「え、え、どうしてここにいるの⁉️

 調査でサッチのほうに行ってるって聞いてたのに‼️」

「さっき戻ってきたんだ。いろいろあってな」

「いろいろ?」

「ああ、いろいろあったから……リズ・アスロン学師のご意見を伺おうと思ってね」


 芝居がかった調子で喋るミオを見て、リズはクスリと笑った。


「それじゃ中へどうぞ、ミオ・カリガライン司令官♪」

「では遠慮なく」


 芝居をしたまま、二人は部屋の中へと入っていった。

 その微笑ましいやりとりは、まさに兄妹そのものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る