4話 最初で最後の証言

 カシームが見つかった場所はサッチ王国内の中央王宮だった。

 行政の中核を担う機関であり、国内全ての意思決定を行う場所。

 その地下も地下にある大きな部屋の中で倒れていた。

 腹部を刺され、息も絶え絶え。

 誰が見ても手遅れな状態だった。 


「カシーム‼️ しっかりしろ‼️」


 ザイードが呼びかけるが、カシームの目は虚ろで、今にも生命の火が消えそうだった。

 そして何より驚いたのは、その隣にあった死体がサッチ王国の国王――

 ズバイル・サッチだったことだ。


 現場の状況と、カシームの手に握られた短刀から考えて、国王を刺したのはカシームだと推察できた。


 混沌極まる現場。


 一体ここで何が起きたのか――


 だが、ミオが意識を向けていたのは、そこではなかった。


「……なんだここは?」


 そう言い出したのは、サラだった。

 どうやらサラも、この部屋の異様さに気づいたようだ。

 

 堅牢に作られた壁。

 

 分厚い天井。


 飾り気のない装飾。


 そして、中央に置かれていたのは長方形のオブジェ。


 それ以外、何もない部屋。



「……この部屋は、なんのために存在してるんだ?」



 サラと同じ疑問を、ミオも抱いていた。

 ここは部屋にしては何もなさすぎる。

 しかし、重要な機能を持っているようにも見える。


 一体この感覚はどこから来るのか――


 ミオは、なんの気無しに、中央のオブジェに近づいてみた。


 長方形のオブジェ。それ以外には、どうにも見えない。


 だがよく見てみると、オブジェには蓋がしているように見えた。

 溝に手を入れ、無理やりに上へ引き上げて見るが――動かない。


 ――そりゃそうか。


 ミオは諦めて手を離すと、オブジェから異音がし始めた。


 何かが噛み合いながら回るような音。


 低く、重い音が部屋に響き渡る。


 全員がオブジェに視線を集めた。


 そして、そのオブジェの先端部分だけが開いた。


 音は収まり、緊張だけが部屋に残る。


 ミオは、恐る恐る中を覗く。


 そこにあったのは――



「黄金の……円盤?」



 ミオは無意識に言葉を発した。


 そして、その円盤に手を伸ばし、触れる――


 何も起きない――


 ならばとミオは、両手でその円盤を持ち上げた。


 思ったよりも軽かった。


「……なんだろう」


 素朴な疑問をつぶやいた。



「それは……ゴールデン・レコードだ」



 突然の声に驚き、振り返る。


 その声の主は――カシームだった。


「カシーム‼️ 良かった……生きていた……‼️」


 ザイードは喜びの声を上げた。

 だが、カシームの容態はひと目見ても、大丈夫なものではなかった。

 しかし、カシームは喋り続けた。


「その……その円盤が……」


 喋るたびに、血反吐を吐くカシーム。


「喋るな‼️ 死ぬぞ‼️」


 ザイードが制止するが、カシームは喋り続けた。

 必死に。

 声を振り絞って。

 言葉を詰まらせながら。



「我々が狂ったのはその円盤のせいなのだ……その円盤を解読したせいで……我々は……」



――そして、事切れた。


「カシーム……? カシーム……嘘だろ……なんで……」


 ザイードの腕の中で、カシームは息を引き取ったのであった。

 ザイードは人目をはばからず泣いていた。

 

 誰もが、カシームの死を嘆いていた。



 だがしかし。


 ミオとサラだけは、カシームの残した言葉の意味を、頭の中で考えていた。



『我々が狂ったのはその円盤のせいなのだ』


『我々が狂ったのはその円盤のせいなのだ』



 ずっと。


 ずっと。



 響き続けていた。

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