3話 滅びの始まりは
悲劇から一夜。
世界の国々が哀悼の意を捧げて一日。
サッチ王国と隣接する国々は、対応に追われていた。
一体あの夜――あの時――何が起きたのか。
それを探るべく、オーウェン共和国、アジル王国、モイス共同体はそれぞれ軍を派遣し、治安維持と、状況の解明を急いでいた。
だが、状況は悲惨なものだった。
幕屋で開かれた三国会議にて、ミオは驚くべき報告をニーヴから聞かされた。
「……生存者なし?」
「首都のみではありますが……」
同席するサラも、ザイードも、表情は固く、晴れない顔をしていた。
ニーヴはさらに報告を続けた。
「それと、行政機関に保管されていたであろう、書物や記録媒体は、全てが壊され、燃やされていました」
「全てというのは――本当に全て?」
ミオは信じられない様子で、ニーヴに問い直した。
「今のところではありますが、本当に全てです」
「徹底的すぎる……」
「特に奇妙なのは、兵士も高官も等しく全員が死んでいるということです。
つまり――」
「政治的意図による殺戮ではなく、自殺に近い」
重い口を開いたのは、サラだった。
更に話しを続けた。
「奇妙な点はもう一つある。
住民、兵士、高官の死体がバラバラに点在していることだ」
ミオはその報告を聞いて、何かに気付いた。
「大量に殺戮をするなら一箇所に集めるはず……」
サラは頷いた。
「わざわざ好きな場所を選ばせて殺してやるなんて、非効率的なことをしていたら、
殺戮は上手くいかない。恐怖が伝播し、暴動に変わっていたはずだ」
しかし、ミオには疑問が生じた。
「ですが、都市部の人間だけが突然自殺をするというのも……」
「当然、強制的な可能性もある」
「そうなると、政治部か軍部の指示が……」
ミオがそう言いかけると、激しい打撃音が聞こえた。
机を叩く音だった。
見るとゴーレム種特有の、大きな岩のような拳が、机に打ち付けられていた。
ザイード・ムダンだ。
その拳は小さく震えているように見えた。
「……カシームがそんなことをするわけがない」
「ザイード殿……あくまでこれは可能性の話であって……」
ミオは慌ててザイードを落ち着かせようとしたが、火に油だった。
「お前達も知ってるはずだ。カシームは高潔で自己犠牲に溢れる男だった‼️
例え、王の命令であっても、必ずや意見し、我々と協調できる猶予を生み出そうとする優しい男だ‼️
そんな奴が自国の国民を殺戮しただと?
強制的に自殺をさせただと?
そんなわけあるか‼️」
堰を切ったように喋るザイード。
その勢いは止まらない。
「これは何かの罠だ‼️
陰謀だ‼️
サッチとカシームは罠にハメられて、汚名を着せられたのだ‼️
そいつを探し出してやる‼️ 探し出して殺して、そして――」
ミオが制止に入ろうとした瞬間――
ザイードは、首を掴まれ持ち上げられた。
首を掴んでいたのは、サラだった。
「黙れ、ザイード」
サラは殺さんばかりの目力で、ザイードを睨んでいた。
それよりもミオは、ゴーレムを持ち上げてしまうサラに驚いていた。
流石、隻眼の守護者――
そう感心していると、サラは大きな声で言った。
「分かってるんだよそんなこと。
カシームとは長い付き合いで、共同軍事演習を何度もやってきた仲だ。
だがそれも、一〇年前までだ。
突然、国交断絶を言い渡され、人の往来さえ禁じたのはどこだ?」
「…………」
ザイードは口を開かなかった。
その態度に、サラの苛立ちは更に加速した。
「サッチ王国だろうが‼️
まず一番に目を向けるべきは、不穏な動きをしていたサッチ王国内部なのは明白だろ‼️」
「そ、そんなこと……‼️」
――分かっている。
そう言いたのだろうというのは、サラもお見通しだった。
「分かってるなら、テキトーなことを抜かすな‼️」
鬼気迫る怒声。
それを受けてザイードは――
涙を流していた。
「分かっている……分かっているんだ……
だが、カシームがこんなことをするなんてとても思えないんだ……」
サラが掴んでいた手を離すと、ザイードは力なく床に倒れ込んだ。
ザイードの悲痛な言葉は、ここにいるミオとサラの本音でもあった。
誰もカシームがこんな残虐なことをしたとは思いたくなかった。
だからこそ――
サラは慰めるように言った。
「取り乱すのも分かる。
庇いたいのも分かる。
だが、現実から目をそらすな。
早く原因を探し、世界に公表してやることこそ、カシームの仇討ちになるのではないか?」
ザイードは、震えながらうなづいた。
そこに、慌てた様子の兵士が現れ、ニーヴに耳打ちをし、去っていった。
それを聞いたニーヴは驚きながら報告した。
「カシーム殿が見つかりました‼️」
その報告を聞いた三人は、幕屋は飛び出して行った。
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