2話 悲劇の瞬間
真夜中の荒野に火が灯る。
兵士たちが握る松明によって、そこだけは昼間のように明るい。
その数二〇〇〇の兵士たちは、一方向を睨み、微動だにしない。
ミオも、最後方の小高い丘から、その方向を見つめていた。
その表情は険しく、無念がにじみ出ていた。
「相変わらず面白くない顔をしてるな」
振り向くと、そこにはアジル王国の女性軍人が立っていた。
長身、隻眼、そして、天に向かって伸びる長い耳。
サラ・ヤイブだった。
「お早いですね、サラ殿」
「老人なのに、か?」
「そんなつもりは……」
「……まぁいい、状況はどうだ?」
「今、兵士に確認をさせている段階です」
「中の確認ができていないのか?」
「はい、内通者と連絡が途絶えまして」
「遠視の魔法は?」
「ダメでした」
「こっちと同じ状況だな」
「そちらもですか?」
「ああ、内通者と連絡が途絶え、魔法も跳ね返された」
「……嫌な予感がしますね」
「ずっとだよ。一〇年前からずっと」
ミオとサラは、サッチ王国内の状況が悪化していることを察した。
一刻も早く、状況をつかまないといけない。
――介入。
その二文字が、ミオの頭の中をよぎる。
頭を激しく振り、その言葉を頭の中から排除した。
ただ『兆候』が見えただけだ――
何も起きていないの早計すぎる――
介入に『間違えた』は存在しない。
行ったら最後、サッチ王国と戦争状態に入ることを意味する。
そんなことで解決できたとして、誰が喜ぶだろうか――
ミオがここに軍を展開するのは、人々を『助ける』ためであり、『殺す』ためではないのだ。
冷静さを保とうと努めていると、ミオはあることに気付いた。
「ザイード殿はまだ出て来ていないのですか?」
「軍は展開しているよ。ほら、北の丘」
サラが指さした丘には、モイス共同体の旗がはためいているのが見えた。
「大方、カシームに連絡を取ろうとしているんだろう。軍が動かないところを見ると、連絡は取れてなさそうだがな……」
「確かカシーム殿は……」
「ああ、ザイードのいとこだ」
血縁者ですら連絡が取れない――
状況はミオが予想していたよりも、遥かに悪いようだった。
「何事もなければいいのですが……」
ミオは本心からそう思った。
ミオだけではない。
サラも、ここにいる全員が同じ気持ちだっただろう。
だが――
それを裏切るように――
突如――
大きな音が辺りに響き渡った――
炸裂音――
空を照らす赤い炎――
火柱――
それはサッチ王国のいたるところから上がっていた――
唖然とするミオ。
頬を強く叩かれる。
叩いたのはサラだった。
「しっかりしろ‼️ 介入だ‼️」
サラは側近と共に、自身の陣地へと足早に向かっていった。
ミオは我に帰り、ニーヴに指示を出した。
「介入するぞ‼️」
「は、はい‼️」
取り囲んでいた3つの軍は――
大きな雪崩となって――
サッチ王国領内へと流れ込んでいった――
天には月――
地には火――
空に向けて、怒号と悲鳴が木霊す――
その夜、一つの国が滅んだ。
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