味方

ヤサイを探そう! の1

 二郎には野菜がたっぷりと使用されている。上に乗っかっている大量のモヤシと心ばかりのキャベツのことを指して『ヤサイ』トッピングと呼ぶが、それだけではなく、実はスープに野菜が溶け込んでいるのだ。煮込まれて原形をとどめていない。ジロリアンである登士郎でさえ、家二郎を作ろうと決心して材料を調べるまでは知らなかった。二郎は見た目以上にヘルシーな料理なのである。


 必要な野菜をリストアップすると、タマネギ、ニンジン、あればブロッコリー、ブタの臭みを取るのにも使う長ネギ、トッピング用のモヤシ、トッピングとしてだけでなくスープにも投入するキャベツとニンニク。以上の七種類。アレンジを加える店もあるので、このウランバナという異世界で採れる野菜で代用しても多少は問題ないだろう。


 登士郎はまずニンジンを探すことにした。根菜であるニンジンは、地球上の広い地域で栽培されている。ウランバナでも育てられているに違いない。


「こういう野菜を探したい。こう、土に埋まっていて」


 家にあったスケッチブックとペンを使い、マーティにヘタクソなイラストを見せると「それなら、マクシスに行きましょう!」と家の外へと連れ出された。ヘタクソなりにも伝わったようだ。


 マクシスはウランバナの王都トーテルから小一時間ほど東に進んだ地域の名称である。農業が盛んであり、この地域で育てられた新鮮な野菜はトーテルの市場でも人気が高い。


「ここです!」


 勇者トレスとしてウランバナで二郎インスパイアラーメンを作ろうともくろむ登士郎は、はやく二郎を作らせて魔王を倒しに行きたい聖女マーティとともに“ニンジン”と同じく地中に埋もれている根っこの部分を食す野菜・・の一種、マンドラゴラの畑にやってきた。葉の部分は、確かにニンジンに見えなくもない。


「ニンジンの代わりにマンドラゴラ……いけるかな……?」


 マンドラゴラといえば『地面から抜くと絶叫する』ことで知られている。登士郎は映画の『ハリーポッター』を思い出していた。こうやって人の手で育てられているのだから、ウランバナではよく食卓にのぼるメジャーでポピュラーな野菜だといえる。


 登士郎が元いた世界のスーパーマーケットや八百屋などではお目にかかったことはない。もちろん食べたこともないので、どんな味がするのかもわからない。


「トーシロー、ちょっと屈んでいただけます?」


 マーティはマンドラゴラ畑の主人から耳栓を借りてきた。自分とトレスの耳に装着する。耳栓をつけなくてはならないということはつまり、想像通りのマンドラゴラをこれから引き抜くのだろう。登士郎はいっそう身の引き締まる思いがした。


「わたくしもマンドラゴラの収穫は初めてです。わくわくしますね!」


 登士郎に話しかけているのだが、耳栓をつけられた登士郎には何も聞こえていない。聞こえていないながらも、相手が喋っている現実に見て見ぬふりはできないのが登士郎なので「そうだね!」と当たり障りのない相づちを打っておいた。


 マンドラゴラの代金は中華麺で支払い済みだ。


 トレスとマーティは、薬師クレーの助力で手に入れたかんすいにより、さまざまなタイプの中華麺の製造に成功している。二郎特有の麺ができるまでのトライアンドエラーで生み出された試作品を廃棄にしてしまうのをもったいなく思った登士郎は、はじめに、小麦粉を譲渡してくれたお礼として、個人商店の店主にこの試作品を渡した。渡す際に、登士郎は『焼きそば』のレシピを店主に伝えている。


 調味料の“ソース”というものは、様々な香味野菜を組み合わせて煮詰めたものであり、異世界でも比較的簡単に作成できる。麺をゆでて、細切りにした野菜と炒めて、ソースで味付けすれば『焼きそば』の完成となる。


 この『焼きそば』の美味しさに感動した店主は、中華麺を目玉商品として店頭に並べた。勇者と聖女が手がけた中華麺でこの『焼きそば』なる料理を作ると「麺がもちもちとしていて美味しい!」と、たちまち大好評。王都トーテムにて、空前の『焼きそば』ブームが発生している。


 そんな流行り物の中華麺による先払いであるから、マンドラゴラ農家の主人は大層喜んでいた。今後もスープの材料や二郎に欠かせない分厚いチャーシューを作るための豚肉との交換アイテムとして中華麺を活用していきたい。


「この、生え際の部分を掴んで、ひと思いにぐいっと引っ張るのがポイント……って、おっしゃっていましたが、聞こえてないですよね」


 マーティはマンドラゴラの葉を掴んで説明する。登士郎も、見よう見まねで別の個体の同じ部分を掴んだ。


「せーの!」


 登士郎が先に引っこ抜くモーションに入ったので、遅れてマーティも引っこ抜こうとする。土の中から顔を出したマンドラゴラは、マンドラゴラらしく「ぴぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」と悲鳴を上げた。


「うわあっ!」

「むきゃっ!」


 登士郎とマーティはとっさに手を放して、耳栓でふさいでいる耳を手で覆う。活きのいいマンドラゴラの声は耳栓をしていても貫通してしまうのだ。普段から収穫しているマンドラゴラ農家なら慣れたものだが、今その主人はご機嫌で『焼きそば』を作っている。

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