第3部:第8話 未来への懸念と希望

「イモータルの残党が意識移植の軍事利用を考えているだって…?冗談じゃない、絶対に許されない!」


 レオンの研究所を訪れたソルが、怒りを露わにする。


「兵士の意識をアンドロイドに移植すれば、究極の戦闘兵器になるかもしれないって?くそっ…俺たちが封印したはずの過去が、また蘇ろうとしている…!」


 ソルの拳が、激しく震えた。


「落ち着けソル…俺も憤りを禁じ得ない。だが、感情に流されるわけにはいかないんだ。冷静に対処しなければ」


 レオンは必死に理性を保とうと努めながら言葉を紡ぐ。


「雛、イモータルの動向はつかめているのか?」


「ええ、注意深く監視しているわ。でも、まだ確たる証拠は掴めていない…」


 雛もまた、憂慮すべき事態に頭を悩ませていた。


「武器としての意識移植なんて…人の心を利用するだなんて、断じて許せないわ」


 エヴァの声が、怒りに震える。マーガレットもまた、複雑な表情を浮かべている。


「…世の中から意識移植への反発が強まる一方で、軍事利用の動きが出てくるなんて。皮肉としか言いようがないわね」


 マーガレットの呟きに、誰もが重く頷く。


「だからこそ、私たちが正しい未来を示していかなければ。意識移植の技術を、本当に人のために役立てる道を」


 雛の言葉には力強さと同時に、どこか翳りが感じられた。


「私の催眠術は諸刃の剣。人の心を癒やすことも、操ることもできる。その力を軍事に利用されたら…考えるだけで恐ろしいわ」


「雛…」


「もし、私の力のせいで人々が傷つくことになったら。もし、戦争の道具にされてしまったら…私は、自分を許せない…」


 雛の声は震え、瞳には悲しみが滲んでいる。それを見かねたエヴァが、そっと彼女の手を取った。


「雛様、あなたの力はきっと、世界を良き方向へ導くはず。そう信じています」


「エヴァ…」


「私だって、マーガレットだって、あなたの催眠術のおかげで新しい人生を得られた。その力は、欠くことのできない希望なのです」


 エヴァの言葉に、雛は小さく頷いた。わずかに湧き上がる希望の萌芽を、彼女は大切に胸に抱く。


「そうですね。絶望している場合じゃない。俺たちにはまだ、なすべきことがあるはずです」


 ソルの決意に満ちた言葉を受け、レオンもまた心を新たにしていた。


「ああ。イモータルの脅威を払うのと同時に、意識移植の正しい未来を示していかなければ。それが俺たち…かつてイモータルの過ちに手を染めた者の、贖罪でもある」


「レオン博士…」


「マーガレットを新しい人生へと導いたように、あの病に苦しむ少女も助けよう。そして、意識移植の可能性を正しく世に示していこう」


「…ええ、そうね。一人ひとりの命と向き合うことを忘れちゃいけない。それがきっと、私たちに課せられた使命なのだわ」


 雛の瞳に、再び強い光が灯る。彼女の周りには、困難に立ち向かう仲間たちの姿があった。


「私には、この力がある。人の心を覗き、導く力が。だからこそ、その力を正しく使う責任があるのよ」

 

 雛は胸に手を当て、誓いの言葉を紡ぐ。


「世界中から非難されようと、私は信じる道を進むわ。レオン、エヴァ、ソル、そしてマーガレット。あなたたちと共に」


 仲間たちもまた、雛の覚悟に心打たれていた。


「皆、引き続き情報収集をお願い。そして、移植手術の準備も着々と進めていきましょう」


 雛の言葉に、一同が力強く頷く。夜の静けさの中で、彼らの決意は熱く燃え上がっていた。窓の外から差し込む、星明りが研究所の一室を淡く照らし出す。


「私は歩み続ける。たとえその先に、あるのが苦難の道だったとしても」


 雛の瞳は、どこまでも澄んでいた。人とアンドロイドが心を通わせ合える世界、意識移植の技術が、真に人類の幸福に役立つ未来を見据えながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る