第3部:第6話 社会の分断と対立
マーガレットの意識移植が成功し、少女の治療についても議論が行われる中、社会ではこの技術をめぐる論争が激化していた。人の意識をアンドロイドに移植することの是非。その問題が大きくクローズアップされ、世論は二分されていく。
「人の心を機械に移すだって?冗談じゃない!人間の尊厳を踏みにじる行為だ!」
ある日、街頭演説する男の怒号が、雛の耳に飛び込んでくる。
「そうだ!アンドロイドなんて所詮は人造物だ。人間とは違う!」
賛同の声が上がる一方で、反論の声も负けてはいない。
「でも、それで助かる命があるなら、慎重に検討する価値はあるんじゃないか?」
「技術の可能性を潰すな!」
意識移植の是非をめぐり、街は賛成派と反対派に分断されていた。レオンの研究所の前でも、抗議のプラカードを掲げる人々の姿が絶えない。
「今、私たちに必要なのは建設的な対話だと思う。お互いの意見に耳を傾け、理解を深めていくことが肝要だ」
そう呟くレオンの横顔に、悲壮感が漂う。
その光景を、雛は複雑な思いで見つめていた。
「こんなにも、社会が分断されるなんて…。私たちの思いは、まだ伝わっていないのかもしれない」
研究の是非を問う声は、雛の胸に重くのしかかる。自分がしていることは、本当に正しいのだろうか。迷いを覚えずにはいられない。
「雛、君は正しいことをしているよ」
そんな雛の背中を、レオンの言葉が押した。
「命を救うために全力を尽くすのは、科学者としての使命だ。たとえ、それが新しい技術であっても」
レオンの瞳には、揺るぎない信念が宿っている。
「わかっています。でも、こんなに反発されるのを見ると…胸が痛むわ」
「君の催眠術は、マーガレットを新しい人生へと導いた。それと同じことを、あの少女にもしてあげたい。君にはその力があるんだ」
レオンの言葉は雛の心に響く。そうだ、私にはこの力がある。意識を操る力が。
「雛様、応援しているわ」
優しく寄り添うエヴァの声。彼女もまた、意識移植によって新たな命を得たマーガレットの姿を思い浮かべているのだろう。
「ありがとう、エヴァ。あなたの支えがあるから、頑張れるのよ」
雛はエヴァの手を握り返し、決意を新たにする。
「レオン、私は…あの子の命を助けたい。そのために私の催眠術を使う。反対の声があろうと、私は私の道を貫く覚悟よ」
雛の瞳には、揺るぎない意志の炎が宿っている。レオンは力強く頷いた。
「君の決意はしっかり受け止めた。僕も全力で協力しよう」
二人の思いは、かたく結ばれた。
「技術の進歩と、倫理の調和。私たちに課せられた難題は尽きない。けれど、目の前の命を救うという信念は、曲げてはいけないもの」
雛の言葉に、レオンも深く頷く。
「その通りだ。人の尊厳を何より大切にしながら、科学の可能性を追求していきたい。君の催眠術は、その実現に不可欠だ」
社会の反発は予想以上に大きい。理解を得るまでの道のりは、決して平坦ではないだろう。しかし、雛は怯まない。目の前の小さな命を、必ず救ってみせる。たとえ、世界の偏見に立ち向かわねばならぬとしても。
エヴァとレオンの支えを胸に、雛は再び一歩を踏み出した。彼女の催眠術は、今日も命と向き合う。人の心を癒やし、魂を解き放つために。
「人の心は複雑で、時に不条理に満ちている。けれど、だからこそ私は、人の心に寄り添う術を追求しているのかもしれない」
意識のデジタル化をめぐる論争は、なおも激しさを増していく。けれど、雛の瞳に宿る炎は消えることなく、不可能を可能にしていくはずだ。
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