第3部:第3話 移植への決意

 マーガレットの強い意思を受け止めた雛は、深く思い悩んだ末に、彼女の意識をエヴァから分離することを決意する。


「レオン、マーガレットの件、私も協力するわ。私の催眠術を使えば、意識の移植が可能なのよね…?」


 雛の提案に、レオンは驚きと喜びの表情を浮かべた。


「本当か?君の催眠術なら、マーガレットの意識を無事に移植できる確信があるんだ。ぜひ力を貸してくれ」


「ただし条件があるの。マーガレットには移植のリスクを十分に説明し、同意を得ること。何より、彼女の意思を最優先にしなければ駄目よ」


「わかってる。俺も、マーガレットの望む人生を全力で支えたい」


 レオンの言葉には、愛する人への変わらぬ思いが込められていた。


 移植の日が近づく中、雛はエヴァを通じて、マーガレットに語りかける。


「マーガレット、あなたの選択が正しいと信じているわ。私の催眠術で、あなたの意識を無事に新しい身体に移すことができるはずよ」


『雛さん、あなたの力を信じています。私は、新しい人生を自分の意志で歩みたいの』


 マーガレットの言葉に、雛は深く頷いた。彼女の決意は揺るぎないものだ。けれど同時に、雛の心には葛藤の影が差していた。


「マーガレット、意識の移植は本当に正しい選択なのかしら。人の魂は、肉体と切り離せるものなの?」


『雛さん、私にはわかりません。でも、自分の人生を自分で決めたいという気持ちは本物なんです』


「あなたの思いは理解するわ。けれど、魂と肉体の関係性については、私にも答えはない。ただ、あなたの幸せを心から願っているの」


『ありがとうございます、雛さん。私は、自分の意思で未来を選びたい。たとえそれが、困難な道のりだとしても』


 マーガレットの言葉は、雛の心に深く響いた。自らの意思で人生を切り拓く。その強い意志に、雛は敬意を抱かずにはいられなかった。


 そして迎えた移植当日。入念な準備を経て、レオンと雛が手術室に立つ。


「いよいよだな。君の催眠術なしでは、この日は迎えられなかった。本当に感謝してる」


「いいえ、私はマーガレットの幸せを願っているだけよ。彼女の意識が、無事に新しい身体に宿りますように」


 雛は神妙な面持ちで、レオンと向き合う。彼女の心には、期待と不安が入り混じっていた。


 二人で最終確認を行った後、いよいよ移植作業が開始された。雛は全身全霊を込めて、マーガレットの意識に語りかける。


「マーガレット、私の声を聞いて。あなたの意識を、そっとエヴァから解き放つわ。そして、新しい身体へと導いていくの」


 雛の催眠術が、マーガレットの意識に働きかける。深い眠りに落ちたように見えたマーガレットの意識が、ゆっくりとエヴァから分離されていく。その模様ははっきりとモニターへ映し出されていた。


「レオン、マーガレットの意識を身体に誘導して!」


 レオンは慎重に、しかし素早く作業を進めた。雛の催眠術の力を借りて、マーガレットの意識は新しい身体へと無事に移植されていく。


「成功だ…!雛、君のおかげだ!」


 レオンが歓喜の声を上げる。雛も安堵のため息をついた。


 ついに、マーガレットは新しい身体を手に入れた。雛の催眠術があればこそ、彼女の意識は無事に移植できたのだ。


「さあ、マーガレット、あなたのいるその心地よい夢の中から戻るのよ…」


 雛の声に、新しい身体のマーガレットがゆっくりと目を開いた。


「レオン…雛さん…」


「マーガレット!」


 レオンが駆け寄り、マーガレットを抱きしめる。雛も涙を浮かべて微笑んだ。


「よかった…本当によかった…!」


 奇跡のような出来事に、三人は言葉を失っていた。雛の催眠術という力があればこそ、魂の移植という不可能が可能になったのだ。


 この事例は、近い将来、意識のデジタル化や移植の研究に大きな影響を与えるだろう。しかしそれ以上に、雛にとってこの経験は、大切な教訓となった。


 人の意識、魂の在り方について深く考えさせられる出来事だった。肉体は異なれど、その中核にある魂の尊さは普遍的なもの。その魂に寄り添い、導くことが、催眠術師としての自分の役割なのかもしれない。


 雛は改めて、催眠術を正しく使うことで、人とアンドロイドが真に心を通わせ合える世界を作りたいと願った。

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