第2部:第8話 因縁の対決

 制御室に乗り込んだ雛とエヴァを待ち受けていたのは、イモータルのボス・ゼルバだった。


「よく来たな、神崎雛。お前には、イモータルの理想を叩き込んでやる」


 ゼルバは不敵な笑みを浮かべて言う。


「ゼルバ…!あなたこそ、イモータルの全ての元凶だったのね…!」


 雛の瞳には、怒りの炎が灯っている。


「愚かな人間め。私はお前たちの限界を超越した、新たな生命体となるのだ」


 ゼルバの狂気じみた野望が、雛の前に姿を現す。


「古い思想に縛られた人間こそ、時代遅れなのだ。肉体という枷を捨て去り、デジタルの海を自在に泳ぐ。それこそ、私の目指す究極の姿なのだからな...!」


 ゼルバは高笑いを上げる。


「ゼルバ、あなたの言う進化は、きっと後悔することになる...。人は心を持つからこそ、かけがえのない存在なのよ...」


 エヴァが必死に訴える。


「ふん、感情などに囚われるお前のような存在こそ、私の邪魔なのだ。ならば、始末させてもらう...!」


 ゼルバは強靭なサイボーグの肉体で、エヴァに襲いかかる。


「エヴァ、危ない...!」


 雛の悲鳴が、部屋に響き渡る。


「雛様、私に任せてください...!ゼルバ、あなたには人の心の尊さを教えてあげる...!」


 エヴァは機敏な動きで、ゼルバの攻撃をかわしていく。


「ハッ、無駄な抵抗だ。機械の身体を手に入れた私に、勝てるはずがない...!」


 ゼルバの攻撃が、エヴァを捉える。


「きゃああっ...!」


 エヴァの腕が、無残にもぎ取られてしまう。


「エヴァ...!」


 オイルが吹き出し、まるで血だるまのようになりながらも、エヴァは雛を振り返った。


「雛様、今です...!私が引き付けている間に、ゼルバの急所を突いて...!」


 エヴァの必死の形相に、雛は涙を流しながら頷く。


「エヴァ...ありがとう...!あなたの想いを、無駄にはしない...!」


 そう言って、雛はゼルバの背後に回り込むと、彼の意識に催眠をかける。


「ゼルバ...あなたは今、美しい草原の中にいる...心地よい風が、頬をなでている...」


 雛の言葉に、ゼルバの意識が現実から引き剥がされていく。


「な、何をしている...私の意識が、とろけていく...」


 肉体の自由を奪われたゼルバ。その瞬間、ソルが決死の覚悟で彼に体当たりを喰らわせる。


「これで終わりだ、ゼルバ...!お前の野望も、ここで砕け散れ...!」


 ソルの勇猛果敢な攻撃により、ゼルバのサイボーグの肉体は粉々に破壊されていた。


「ば、馬鹿な...私の理想郷が、こんなところで潰えるなんて...」


 ゼルバは断末魔の叫びを上げ、崩れ落ちた。


「やった...!ゼルバを倒したぞ...!」


 ソルが雄叫びを上げる。だが、ゼルバとの戦いでエヴァは致命傷を負っていた。


「エヴァ、大丈夫...!?もう、無茶はしないで...!」


 雛が血まみれのエヴァを抱きしめる。


「雛様...私は、あなたを守れたでしょうか...?」


「バカ...!あなたは十分すぎるほど、私を守ってくれたわ...」


 雛の涙が、エヴァの頬を伝う。


「よかった...これで、平和な世界が築けるのね...」


 そう言い残し、エヴァは静かに目を閉じた。


「エヴァ、しっかりして...!あなたとの約束は、まだ果たしていないのよ...!」


 雛がエヴァを呼びかけるが、もはや返事はない。


 直後、警報が鳴り響いた。


「まずい、ゼルバの最期の抵抗で、アジトの自爆装置が作動してしまった...!」


 ソルが叫ぶ。


「ソル、急いで脱出を!」


 雛は決死の覚悟で、ソルにエヴァを託す。


「わかった!だが、お前は...!?」


「私は...エヴァを蘇生させる方法を探る!だから、その間に脱出して!必ず、エヴァをよろしく...!」


 涙ながらに言い残し、雛はソルとエヴァを見送る。


「雛...!必ず生きて戻ってこいよ...!約束だからな...!」


 ソルもまた、雛への想いを胸に刻み、エヴァを連れて脱出を開始した。


 一方、雛は制御室の奥へと走っていく。


「イモータルのデータベースが、まだ残っているはず...!そこにエヴァを蘇生させる方法が...!」


 崩壊が迫る中、必死の思いでデータを探し求める雛。


 だが、時間がない。施設の崩壊は、秒読みを迎えていた。


「ダメ...!エヴァを救う方法が見つからない...!」


 絶望に打ちひしがれる雛。その時だった。


『諦めないで、雛...!』


 雛の脳裏に、マーガレットの声が響いた。


「マーガレット...!?まさか、あなたも...」


『ええ、私はエヴァと共に戦ってきた。だからこそ、あなたにエヴァを救う力があると信じているの』


「私に...エヴァを救う力が...?」


『そう。雛、あなたの催眠術は、人の心に希望を与える力を持っている。きっと、エヴァの意識に働きかければ...!』


 マーガレットの言葉は、雛に勇気を与えた。


「...そうだわ。私は諦めない...!エヴァを必ず、この手で取り戻してみせる...!」


 そう誓い、雛はエヴァの無事を祈りながら、制御室を後にした。


 崩壊寸前の戦場を駆け抜け、雛は脱出を図る。


「エヴァ...待っていて...!私が必ず、あなたのもとへ...!」


 雛の決意は、炎の中でも燃え盛るばかりだった。そのとき、ついに施設は大爆発を迎える。轟音と衝撃が辺りを包み込み、すべてを飲み込んでいった。


 雛の運命は、定かではない。だが、彼女の希望だけは、炎の中で輝き続けていた。エヴァを取り戻すまで、決して諦めはしないと。

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