第2部:第5話 宿命の邂逅

 マーガレットの意識データが眠るサーバールーム。雛とエヴァは、その前に佇んでいた。


「エヴァ、これがマーガレットの意識データよ。触れてみて」


 雛に促され、エヴァがそっとサーバーに手を伸ばす。その瞬間だった。


「...これは、一体...?」


 エヴァの脳裏に、強烈な既視感が襲いかかる。


「エヴァ、どうしたの?」


「雛様...。私の中に、見知らぬ記憶の欠片が...」


 エヴァの脳裏に、朧げな光景が浮かび上がってくる。緑豊かな草原、優しく微笑む女性の姿。


『私の名前は...マーガレット...』


 どこからか、女性の囁くような声が聞こえてきた。


「まさか、マーガレットの意識の欠片が、エヴァの中に宿っていたとは...!」


 ソルが驚きの声を上げる。


「エヴァがイモータルの端末にアクセスした際に、マーガレットの意識データを一時的に宿したのかもしれないわ」


 雛もまた、信じ難い事実に目を見張っている。


「マーガレット...。私はあなたの無念を、ずっとこの胸に刻み続けていたのね...」


 エヴァは自らの中に眠る、もう一つの意識に語りかける。


『そう...エヴァ。あなたは、私の意志を受け継いでくれていたのね...』


 マーガレットの声は、どこか安堵しているように響いた。


「でも、マーガレット。あなたの意識は、ばらばらに引き裂かれてしまっている...このままでは...」


 エヴァの言葉に、マーガレットの意識が揺らぐ。


『わかっているわ...でも、私にはもう力がないの...』


 絶望に沈むマーガレット。だが、そこへ雛の力強い声が響く。


「マーガレット、諦めないで。私の催眠術で、あなたの意識を紡ぎ直してみせる!」


 雛はエヴァの手を取ると、マーガレットに語りかける。


「マーガレット、私の声を聞いて。あなたの意識は、決して消えたりしない。ただ、バラバラになっているだけ。だから、一つ一つ拾い集めて、再び紡ぎ直せばいい」


 雛の言葉は、マーガレットの意識に希望の光を灯す。


「そう、思い出して。あなたが愛する人たちとの大切な記憶を。レオン博士との出会い、二人で過ごした楽しい日々、そしてソルとの約束...」


 雛の語りかけに呼応するように、マーガレットの意識が次第に結束されていく。


『ええ...思い出したわ。私の大切な人たち...そして、私自身...』


「そうよ、マーガレット。あなたの意識は、ここで一つになる。もう二度と、引き裂かれたりしない」


 雛の催眠術が、マーガレットの意識を強く、優しく包み込んでいく。


「マーガレット、あなたを忘れた者はいない。みんなあなたの帰りを待っているのよ」


『ソル...レオン...そして、エヴァ...』


 愛する人たちの名を呼ぶマーガレット。その意識は、完全に修復されつつあった。


「ええ、そうよ。だからもう一度、あなたらしく生きる決意をして」


 雛の言葉に、マーガレットの意識が光り輝く。


『ええ...私、生きたい...!みんなと、もう一度...!』


 その瞬間、エヴァの体が激しく震えた。


「マーガレット...!」


 エヴァの口からは、マーガレットの声が響く。


『ソル...レオン...みんな、聞こえる...?私よ、マーガレット...!』


 マーガレットの意識は、エヴァの体を借りて、ついに言葉を紡いだのだ。


「マーガレット...!君の声が、聞こえるぞ...!」


 ソルの目から、喜びの涙がこぼれ落ちる。


「よかった...!雛様、あなたの催眠術が、マーガレットの意識を呼び戻したのですね...!」


 エヴァもまた、感動に胸を震わせていた。


「いいえ、エヴァ。あなたの中に、マーガレットの意識の欠片が宿っていたからこそ、私の催眠術は効果を発揮できたのよ」


 雛は微笑みながら、エヴァの手を握る。


「つまり、マーガレットが救われたのは、他でもないあなたの存在があったからなのよ」


 その言葉に、エヴァの瞳が潤む。


『ええ、エヴァ...あなたのおかげで、私は再び希望を取り戻せた...本当に、ありがとう...』


 マーガレットの感謝の言葉が、エヴァの心を温かく包み込む。


「マーガレット...あなたとの絆は、私の生きる希望です。これからは一緒に、イモータルと戦っていきましょう」


『ええ、エヴァ。あなたと共に戦えることを、心から嬉しく思うわ』


 エヴァとマーガレットの意識が、完全に結ばれた瞬間だった。

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