第2部:第3話 因縁の対決
イモータルのデータ解析を進める雛とエヴァ。だが、その最中に思わぬ襲撃者が現れた。イモータルの幹部にして、レオン博士の片腕とも言われるソルだ。
「貴様ら、俺たちの計画を潰すつもりか…!」
ソルは不敵な笑みを浮かべながら、二人を睨みつける。その眼差しからは、どす黒い殺意すら感じられた。
「レオン博士の理想に心酔しているソルね…。まさか、イモータル中枢のあなたがくるとはね…」
雛が警戒しながら言う。ソルの存在は、レオンのノートにも記されていた。その過激な思想は、雛の目にも危険と映っていたのだ。
「俺はレオン様の夢を叶える者。人間の意識をデジタル化し、機械の中で永遠の命を手に入れること。それこそが、イモータルの目指す理想郷なのだ…!」
ソルの口調は、狂気すら感じさせる。レオンの思想に完全に取り憑かれているのだ。
「でも、その理想のためなら、どんな犠牲も厭わないって言うの?」
エヴァが食い下がる。人間の魂を奪う行為は、彼女の価値観では到底許されるものではない。
「犠牲?ハッ、馬鹿な。肉体というくびきから解放たれ、機械の体に宿ることこそ、人間にとっての究極の幸福だ。それが、真の進化の道筋だとなぜわからん…!」
ソルの主張は、あまりにも極端だった。人間の尊厳を踏みにじる思想に、雛もエヴァも眉をひそめる。
「あなたの言う幸福は、もはや人間のものではないわ。機械の身体を得たところで、魂を失ってしまえば、それは存在の否定に他ならないもの」
雛が真っ向から否定する。人間性の尊さを何より大切にする彼女には、ソルの思想は到底受け入れられない。
「思想の相違など、力ずくで教えてやる…!」
言うや否や、ソルは雛に襲いかかった。鋭い短剣を手にした刃が、雛の頬をかすめる。
「雛様、危ない…!」
エヴァが駆け寄るが、彼女よりも雛の方が早かった。
「私の声に、耳を澄まして…」
雛はソルと目を合わせたまま、催眠術の言葉を紡ぐ。
「な、なんだ…目が、目が離せない…」
不思議な力に捕らわれたように、ソルの動きが止まる。雛の催眠がかかったのだ。
「ソル、今あなたの前に広がるのは、黄金の草原…心地よい風が、あなたの全身を包み込んでいる…」
雛は柔らかな口調で、ソルを幻想の世界へと誘う。かつては催眠術師の修行を積んだ雛だからこそ、人の深層心理に働きかける技法を心得ているのだ。
「な、何を…俺に、何を見せる気だ…」
ソルは戸惑いながらも、雛の言葉に導かれるまま、意識を草原の風景へと向かわせていく。
「ねえ、ソル。あなたの隣には、愛する人の姿が見えるでしょう?その笑顔に、あなたは安らぎを覚えているはず」
雛の囁きに、ソルの表情が一変する。頬を伝う涙。荒々しかった顔が、不思議な安堵感に包まれていく。
「あ、あそこにいるのは…マーガレット…?」
「ええ、そう。あなたが心の奥底で、ずっと会いたかった人よ。ソル、あなたはこんな穏やかで温かな幸せを、ずっと求めていたのかもしれない」
幻覚の中で微笑むマーガレット。その姿は、ソルにとって何よりも愛おしいものだった。
「マーガレット…俺は本当は、お前とこうして手を取り合って、のどかな日々を過ごしたかったのかもしれん…」
ソルの瞳からは、次々と涙がこぼれ落ちる。雛の巧みな催眠が、彼の中に封印されていた本心を呼び起こしたのだ。
「そうだったのね、ソル。あなたも、愛する人を失う辛さを知っているのね」
そこへ、雛の優しい声が重なる。
「でも、だからこそ問いたい。今のあなたは、本当に幸せだと言えるの?マーガレットは、あなたがこんな過激な思想に取り憑かれた姿を、果たして喜ぶと思う?」
雛の問いかけに、ソルは我に返ったように身体を震わせる。
「私も、ソルの苦しみはわかります。だって私だって、大切な人を失うという悲しみを味わったことがあるのですから」
ソルに寄り添うように、エヴァが言葉を重ねる。アンドロイドである彼女もまた、雛との別離という悲劇を乗り越えてきたのだ。
「だからこそ、私は雛様から『心』という宝物をもらえたことが、何より嬉しかった。機械の体だろうと、私には紛れもない、かけがえのない『個性』があるんだって」
エヴァの告白に、ソルは驚きに目を見開く。
「心…個性…俺は、そんな当たり前のものを、どこかに置き忘れていたのかもしれん…」
ソルの心に、静かな変化が訪れる。
「ソル、まだ遅くはないわ。あなたにだって、人生をやり直すチャンスがあるはず。マーガレットも、あなたが正しい道を歩むことを願っているはずよ」
雛に諭され、ソルは決意を固めるように深く頷いた。
「ああ、俺は…イモータルを去ろう。レオン博士についていくのは、もうやめだ。そして、マーガレットを救い出し、彼女との新しい人生を始めるんだ…!」
こうして、ソルの心にも希望の光が灯った。雛の催眠術が、彼の魂に宿る闇を払拭したのだ。
「凄いわ、雛様!ソルを救ったのは、他でもないあなたの優しさですよ」
エヴァが雛の手を握り、喜びを分かち合う。
「いいえ、エヴァ。あなたの支えがあったからこそ、私にも力が湧いたの。私たちなら、この因縁にも必ず決着をつけられるはずよ」
雛とエヴァ。人間とアンドロイドの垣根を越えた絆が、今、新たな戦士を生み出したのだった。
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