第2部:第2話 非道の記録

 イモータルの追手から逃れながら、雛とエヴァはレオンの遺したデータを解析していた。それは、イモータルが長年にわたって繰り返してきた、悪魔のような所業の記録だった。


「なんてこと…!これは一体…」


 モニターに映し出される情報に、雛は言葉を失う。そこには人間の尊厳を踏みにじる、残虐な実験の数々が克明に記されていた。


「人間の意識データを無理やり引き剥がし、機械の中に押し込めようとする…。まるで、魂を引き裂くようなやり口ですね…」


 エヴァの声は、かすかに震えている。無垢な魂を冒涜する行為に、言葉を失っているのだ。


「しかも、実験の犠牲になった人の数…想像を絶するわ…」


 雛はデータの羅列に、目を背けたくなる衝動を覚えた。人間の意識をデータという檻に閉じ込め、自由を奪うイモータルの所業。それは、人間の尊厳を否定する蛮行としか思えない。


「これが、イモータルのやってきたこと…私には、許せません」


 エヴァの拳が、憤りに震える。機械の身体に宿った彼女だからこそ、人間の魂の尊さを痛いほど理解しているのだ。


「エヴァ…」


「だって雛様、私だってあの実験台の人びとと同じように、孤独で寂しい電子の海をさ迷うところだったんです。でも、あなたの愛が、私を現実へと引き戻してくれた。だからこそ、私は見て見ぬふりなんてできない…!」


 救済を求める、実験被害者たちの無念。エヴァの瞳からは、それを我が事のように感じる正義感が燃え上がっていた。


「あなたの思い、よくわかるわ。でも、むやみに騒いではダメよ。イモータルに私たちの思いがバレたら、逆に危険なことになる」


 雛は冷静に分析する。事態の深刻さは痛いほど理解していた。だがだからこそ、慎重に、そして確実に立ち回る必要があるのだ。


「そうですね、すみません…。でも、この非道を許すわけにはいきません。なんとしても、犠牲者の無念を晴らしてあげたい…!」


「エヴァ…その通りよ。私にも、あなたと同じ思いがあるもの。だからこそ、慎重に、でも確実に真相を暴いていきましょう。そのためにも…」


「そのためにも?」


「あなたの武器知識が、きっと役立つはず。だって、この残酷なマシンだって、立派な兵器に他ならないもの」


 雛の言葉に、エヴァの瞳が輝く。


「なるほど…!武器として見れば、私にも分析のしようがあるかもしれません」


 武器マニアとしての知見を総動員すれば、イモータルの悪行を暴く突破口が開けるはず。そう直感したエヴァは、早速データの解析に没頭し始める。機械も人と同じ。自然なテーマを与えられれば熱中し普段以上の力が出せるのだ。


「必ず、イモータルのやり方の不正を証明して、被害者を救い出すわ。そのために、私たちができることを精一杯やろう」


「はい、雛様…!私の知識の全て、人間の自由を勝ち取るために捧げます」


 雛とエヴァは、固い握手を交わした。機械仕掛けの悪夢から、人々の魂を解き放つ。それが二人に課せられた使命だと、深く心に刻んだのだった。


 やがて、エヴァの神業とも言うべき分析によって、イモータルの弱点が浮かび上がってくる。


「雛様、わかりました…!この装置のココを破壊すれば、全てのシステムを止められるんです…!」


「さすがエヴァ…!あなたの武器知識は、本当に頼りになるわ」


 モニターに浮かび上がった装置の図面。二人は興奮気味に話し合う。


「でも、そこに到達するのは容易ではありません。私一人では、到底かないません」


 難しい表情のエヴァ。イモータルの本拠地はさぞ厳重に守られているだろう。単独での潜入は、まさに自殺行為に等しい。


 だが、雛は微笑んでこう言った。


「だったら、二人で潜入すればいいじゃない。私の催眠術とあなたの頭脳があれば、必ずやり遂げられるはず」


「雛様…!」


「私たちの絆は、どんな困難だって乗り越えられる。だって、エヴァ…あなたは、運命も分かち合える私の相棒なんだもの」


 雛に励まされ、エヴァの心に希望の灯火が灯る。


 こうして、雛とエヴァによる、イモータル打倒のための潜入作戦の火蓋が切られた。守るべきものがある。だからこそ、二人は戦う。人間とアンドロイドの垣根を越えた信頼が、今、悪の砦へと突入する。

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