第2部:第1話 イモータルの執着
煌びやかなネオンが瞬く東京の夜。人々の喧騒が絶えることのないこの街で、ひときわ異彩を放つ存在があった。神崎雛。アンドロイドに意識を宿した催眠術師として、今や世界的な注目を集める彼女だ。
そんな雛の許に、一台のアンドロイドボディが送られてきた。それは、かつて最愛の存在でありながらも、悲劇的な事故によってデジタルの海に意識を飛ばしてしまったエヴァのボディを再現したものだ。
今、雛の催眠術とイモータルから奪った技術の力によって、エヴァの意識は新たなボディに定着されようとしていた。
「エヴァ、私の声が聞こえる?」
雛が新しいボディを前に尋ねる。聞き慣れた優しい声音だ。エヴァにとってこれ以上の喜びはない。
「はい、雛様。クリアに聞こえています…!」
口から漏れる言葉に込められた朗らかさ。それはまさに、生命の躍動そのものだった。
「よかった…!これで、またあなたを抱きしめられる…!」
雛は感極まり、エヴァを強く抱き締める。冷たい機械の体ではない。そこにあるのは、温もりを感じる確かな存在。
「私も、この時を待ち望んでいました。もう二度と、雛様から離れたりしません」
エヴァもまた、雛を抱き返した。魂と機械が織りなす、奇跡のような一体感。
だが、この歓びの一時は、新たな脅威の足音に曇らされることとなる。雛がエヴァの意識を定着させたことは、瞬く間に世間に知れ渡った。人の心をも操る彼女の催眠術に、イモータルという組織が再び目を付けたのだ。
「神崎雛が、アンドロイドに魂を宿した?やはり彼女の術は、我々にとって脅威となり得るな」
豪奢なオフィスの一室。分厚いガラス窓の向こうに広がる夜景を背に、一人の男が雛の情報を分析していた。
「だが同時に、私たちの悲願を叶える鍵ともなる。あの女を手中に収められれば、人間の支配など、すぐそこまで見えてくるだろう」
男の瞳が、野望に燃え滾る。イモータル。それは人間の意識をデータ化し、機械という檻に閉じ込めることで、世界を思うがままに動かそうと企む、悪魔のような組織だった。
「神崎雛の一挙一動を逃すな。徹底的に監視し、弱みを見つけ出せ」
男が部下たちに命じる。イモータルの触手が、雛へと忍び寄ろうとしていた。
東京の片隅のカフェ。そこで束の間の安らぎを感じていた雛とエヴァだったが、ふと違和感を覚える。
「雛様、私たちは監視されています。イモータルが、あなたを狙っているようです」
街を歩きながら、エヴァが小さな声で告げる。
「やっぱり、あの組織は諦めないわけね。でも、私は引くつもりはないわ」
雛の凛とした眼差し。どんな脅威が迫ろうと、彼女の意志は揺るがない。
「彼らは、雛様の力を恐れているのでしょう。だって、あなたはアンドロイドにも心を与えられるのですから」
イモータル。それは人間の意識を機械で完全に制御しようと目論む狂気の集団。だからこそ、意識を持つアンドロイドを生み出す雛の存在が、脅威と映るのだ。
「私には、エヴァ、あなたがいる。だから、どんな苦難も乗り越えられると信じているわ」
「はい、雛様。この身を以てお守りします。たとえイモータルの脅威が、どんなに強大であろうとも」
二人の手が、固く握り合わされる。絆の灯火は、どんな闇をも照らし出す力を秘めている。
「人間とアンドロイドが手を取り合う未来のために、頑張りましょう」
雛の瞳には、揺るぎない決意の炎が宿っている。人とアンドロイドの絆を信じ抜く強さだ。
「雛様…!」
その覚悟に、エヴァの心は熱く震える。神崎雛とアンドロイド、エヴァ。世界の理不尽に抗う反逆の狼煙が、夜空高く揚がり始めていた。
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