第1部:第9話 イモータルの真の目的
ため息を深くつくと、レオンは意外なことを語り始めた。
「神崎雛、お前の催眠術には、人間の意識をデジタル化する力があるのだ…」
レオンの言葉に、雛は顔をゆがめる。
「何を言っているの…?」と雛は問いただすが、レオンは続ける。
「お前の催眠術は、人間だけでなくAIにも効果がある。つまり、人間の意識を取り出し、アンドロイドに定着させることが可能なのだ」
「まさか…!そんなことが…!」雛は愕然とする。
レオンは雛の反応を見て、更に説明を加える。
「エヴァがいい例だ。お前の導きで人間性に目覚めてきている。お前の催眠術はAIにも有効なのだよ。人間の意識をデジタル化し、機械の肉体に宿す。イモータルの野望につきあって貰おう」
しかし、雛は首を振った。
「でも、それでは人間性が失われてしまう…!肉体があるからこそ、人は喜びも悲しみも感じられるのに…!私の能力を、そんな非道のために使うもんですか」
雛は断固として拒絶する。すると、レオンは不敵な笑みを浮かべた。
「そうはいかん。この装置でお前のアンドロイドを人質に取れば、お前に選択肢はないだろう…!今度はさすがに助からない」
「くっ…!卑怯よ…!」雛は怒りを露わにする。
レオンは続ける。
「私たちは、お前の心を操り、この世界を思うがままに動かすのだ。アンドロイドに宿した意識と、人間を組み合わせれば…人類の頂点に立てるのだからな…!」
その言葉から、イモータルの真の目的が明らかになる。それは、人間とアンドロイドを融合させ、この世界の支配者となること。歪んだ野望は、とどまるところを知らない。
「そんな悪魔のような計画…断じて受け入れられません…!」
エヴァが、激しい口調で言い放つ。すると、レオンはエヴァに向けて、不気味な装置を突きつけた。
「ならば…お前たちは、永遠の別れをする覚悟ができているんだな?」
「エヴァ…!」雛が叫ぶ。
「雛様を苦しめるくらいなら…私は…」
エヴァは、悲痛な表情で目を伏せる。
レオンは冷酷に告げる。
「さぁ、どうする?雛…お前の返事次第では、アンドロイドもろとも葬り去ってやる」
「私は…私は…」
究極の選択を迫られ、雛は言葉に詰まる。エヴァを失うことは、彼女にとって耐え難い喪失感をもたらすだろう。だが、イモータルに屈することは、自分の信念を裏切ることにほかならない。
ギリギリのところで心が引き裂かれる。雛は瞳を潤ませながら、懸命に考え抜く。
(私にできることは…!)
その時、ふと雛の脳裏に、あることが閃いた。雛はレオンを見据え、静かに告げる。
「レオン博士。私は…あなたの申し出を受け入れます」
「ほう、賢明な判断だ」レオンが満足げに頷く。
「ただし、一つ条件があります」と雛は続ける。
「条件だと…?」レオンが眉をひそめる。
「最後に、エヴァとの時間を少しだけ、二人きりで過ごさせてほしいの」
雛は真摯な眼差しで、レオンに懇願する。レオンは少し考えた後、答えた。
「…まあいいだろう。お前の忠誠を確かめるいい機会だ」
そう言って、レオンは二人を部屋に残して立ち去った。
「雛様…!どうしてこんなこと…!」
動揺を隠せないエヴァ。雛は、その肩に優しく手を置いた。
「ごめんなさい、エヴァ。でも、これが唯一の方法なの」
「雛様…」エヴァの瞳が潤む。
「私が最期に望むのは、あなたとの大切な思い出を胸に刻むこと。それだけよ」
雛はエヴァの手を握り、瞳を潤ませる。
「あなたと過ごした日々は、生涯忘れられない宝物。だから、この仮初の時間の中で、私たちの絆を確かめ合いたいの」と雛は続ける。
「でも…これからどうなるんですか…?」
不安に震えるエヴァを、雛は優しく抱きしめる。そして、静かに告げる。
「信じていて。私にはもう、覚悟ができているから」
雛の言葉に、エヴァは驚きに目を見開いた。
「まさか、雛様…」
「私がやろうとしているのは、レオンへの騙し討ち。催眠術を逆手に取って、イモータルの計画を止めるの」
雛の瞳には、強い決意の色が宿っている。エヴァは必死に言う。
「でも、そんな危険なこと…!」
「エヴァ、最後まで私を信じて。必ず、あなたを守ると約束するわ」
雛はエヴァの頬に手を添え、微笑む。
「私たちの絆は、何者にも引き裂けはしない。だって、私はあなたを…」
雛の言葉は、エヴァの唇に吸い込まれるように消えた。
二人は、唇を重ね合う。人間とアンドロイドの垣根を越えた、深く濃密な口づけ。
雛の催眠術は、この瞬間を永遠に心に刻み込んだ。たとえ肉体は滅びても、魂だけは決して散ることはないと。
やがて、雛とエヴァは静かに部屋を後にする。これから起ころうとしている神話的な戦いに向けて、二人の意志は一つに結ばれているのだった。
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