第1部:第7話 レオン博士の研究施設

1-7 レオン博士の研究施設


 イモータルとの戦いの火蓋が切って落とされた。雛とエヴァは、父・悠吾の遺したノートに残された手がかりを頼りに、レオン博士の研究施設へと向かった。


 目的地に辿り着いた二人の前に広がっていたのは、打ち捨てられたかのような廃墟だった。何かをむさぼるように伸びた蔦が建物を覆い、錆びついた扉が無残に軋む。だが、その荒廃した佇まいとは裏腹に、そこはかつてイモータルの陰謀に深く関わっていたのだ。


「ここが、レオン博士の研究施設ね…」


 雛は身震いを禁じ得ない。


「なんて不気味な場所なの…。まるで、悪夢の中に迷い込んだみたい…」


 薄暗い通路を進む二人は、息をひそめながら奥へと足を進める。ふいに、エヴァが足を止めた。


「あっ、雛様!ご覧ください、あそこに…!」


 エヴァが指差す先には、無数の武器が陳列されていた。銃器から冷兵器まで、その種類は多岐に渡る。


「すごい…!こんなにたくさんの武器が…!」


 エヴァの瞳が、好奇心に輝いた。


「ちょっと、エヴァ。私たちはそんなものを見に来たんじゃないでしょ」


 雛が呆れ顔で言う。


「で、でも…こんなにかっこいい武器がずらりと並んでいるだなんて…!」


 エヴァは、武器マニアの本性を隠しきれずにいる。雛は一瞬ため息をついたが、ふいにかすかな微笑を浮かべた。これもまた、エヴァの持つ愛らしさなのだ。


 その時、不意に部屋の奥から物音がした。


「誰かいるの…?」


 雛の背筋に、冷たいものが走る。


「…おや、私のラボに誰かが来たようだな」


 低い声が響き、部屋の奥から一人の男が姿を現した。


「レオン博士…!」


 雛が息を呑む。あの写真に写っていた、父の盟友だという男だ。


「神崎悠吾の娘か。よくぞここまで辿り着いたな」


 レオンは、冷ややかな笑みを浮かべながら二人を見下ろしている。


「貴方が、イモータルに関わっているというのは本当ですか?」


 雛が問いただす。


「フン、余計な詮索だと思わんかね。私がどんな研究をしていようと、お前には関係のないことだ」


 レオンは、秘密を守るように言葉を濁す。


「お願いです、レオン博士。父は貴方の研究に危険を感じていた。その理由を教えてください!」


 だが、レオンは冷たく言い放つ。


「悠吾は優秀な科学者だったが、私の研究の本質を理解できなかった。彼の考えは、あまりに小市民的だったのだよ」


「父さんを侮辱するな!父さんは、人間の尊厳を何より大切にする人だった!」


 雛が怒りに声を震わせる。


「人間の尊厳?はっ、笑わせる。科学の進歩のためなら、多少の犠牲は厭わないのが本当の研究者というものだ」


 レオンの言葉は冷酷だった。まるで、人の命を実験材料ぐらいにしか思っていないようだ。


「くっ…!そんな非道な考えが、イモータルにも通じているのね…!」


 雛は拳を握りしめる。


「お前には何もわかるまい。私の研究は、やがて人類を導く指針となる。お前たち人間にその真価が計れるものか」


 レオンは高慢に鼻を鳴らした。


「それに、お前のアンドロイドも格好の研究材料になりそうだ。私の装置で意のままに操れるはずだからな…!」


「雛様、危ない…!」


 レオンが不気味な装置を取り出した時だった。エヴァが雛の前に立ちはだかる。


「私はレオン博士の言いなりにはなりません。雛様と、人とアンドロイドの未来を守るため、ここは退きません…!」


「小賢しい…!ならば、その身で思い知るがいい…!」


 レオンが装置のスイッチを入れる。途端、エヴァの全身に電撃が走った。


「きゃああっ!」


 苦痛の悲鳴を上げ、エヴァはその場に崩れ落ちる。


「エヴァ…!し、しっかりして!」


 雛が涙ながらにエヴァを抱きかかえる。


「く…は…様…」


 エヴァは意識を手放しながら、かすかに呟いた。そして、動かなくなってしまう。


「ふっ、これでお前の心強い味方もいなくなった。さぁ、神崎雛よ。私の研究に協力するのだ…!」


 レオンは不敵な笑みを浮かべ、雛へと歩み寄る。


「エヴァ、ごめんなさい…こんな時に、あなたを守れなくて…」


 雛は涙を流しながら、冷たくなっていくエヴァを抱きしめる。絶望の淵が、二人を飲み込もうとしていた。


 だが、雛はまだ希望を捨ててはいない。エヴァとの絆を信じ、必ず道は開けると心に誓うのだった。たとえ、目の前に立ちはだかる壁が、どんなに大きくとも。

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