第1部:第6話 父の遺したノート

 雛とエヴァは、イモータルの悪事の数々に憤りを感じながら、事件の真相を探る手がかりを求めて奔走していた。そんな折、エヴァが雛の亡き父・悠吾の遺品の中から、一冊のノートを見つけ出した。


「雛様、これは…」


 エヴァが、古びたノートを差し出す。


「父さんの研究ノート…?なんで、こんなものが…」


 雛は驚きに目を見張りながら、そのノートを手に取った。埃を払うと、そこには『神崎悠吾 研究記録』という文字が刻まれている。


「懐かしい…父さんの手書きだわ」


 雛はノートのページをめくりながら、遠い日の記憶に思いを馳せる。幼い頃、父・悠吾の研究を手伝った日々。家族団欒の温かな思い出の数々が、雛の脳裏をよぎっていく。


「雛様、このノートには一体何が…?」


 エヴァの問いかけに、雛は我に返った。


「ええと、どれどれ…」


 雛がノートに目を通すと、そこには気になる記述が見られた。


「なんて書いてあるの…?父さんは、レオンという研究者と一緒に研究をしていたみたいだわ」


「レオン…聞き覚えのある名前ですが…」


 エヴァも首を傾げる。


 さらにページをめくると、そこには悠吾の書いた走り書きのメモが目に入った。


『レオンの提案する研究には危険が伴う。だが、彼の才能は無視できない。慎重に付き合っていく必要がありそうだ。』


『レオンの野心が過ぎる。このままでは、倫理の線を越えてしまうのではないか。』


「父さん…レオンという人物を警戒していたのね…」


 雛の眉間には、疑問の影が差した。


「レオン…もしかして、あのレオン博士では?」


 エヴァの推測に、雛は息を呑んだ。


「そういえば確か、レオン博士はイモータルの幹部の一人だったわね…父さんは、彼の危険な研究に気づいていたのかも…」


 そのときだった。


「あら、こんなところにも…」


 エヴァが、ノートの背表紙に仕込まれた隠しポケットを発見する。そこからは、一枚の写真が姿を現した。


「この人は…」


 写真に写っているのは、白衣を着た悠吾と、その隣に立つもう一人の男性研究者だった。


「まさか、レオン博士…?父さんと一緒に写っている…」


 二人が和やかな表情でカメラに収まる姿。それは、単なる同僚以上の親交を思わせた。


 だが、レオン博士の眼差しには、どこか冷たいものが感じられる。


「お父様は、レオン博士の内面に何かを感じ取っていたのかもしれません…」


 エヴァの言葉に、雛も深くうなずく。


「ねえ、エヴァ。このノート、ここで終わっているわけじゃないみたい。次のページが切り取られているの」


 雛がノートを逆さまにすると、そこには、明らかに引き裂かれた痕跡が残っていた。


「もしかしたら、このノートの続きが、何かしら重要な情報を秘めているのかも…」


「そうですね。お父様がレオン博士の研究に警鐘を鳴らした後、何があったのか。その真相は、まだこのノートの中に隠されているはず…!」


 二人の目が、真実への渇望に輝いた。


「私たちは、父さんの遺志を継がなくちゃ。イモータルとレオン博士の関係を解き明かし、父さんの残した謎を追うの」


「はい、雛様。私はあなたと共にある限り、決して諦めません。必ずや、お父様の残した真実の欠片を見つけ出してみせます」


 エヴァの凛とした眼差しに、雛は心強さを覚えた。


「ありがとう、エヴァ。そうね、二人で力を合わせれば、きっと道は拓けるはず」


 雛はノートを大切そうに抱え、深く頷いた。


 悠吾の遺したノートは、まだ語り尽くしていない事実を秘めている。そのことを、雛は確信していた。父が残した宿題を解き明かすことこそ、イモータルの闇に迫る糸口となるはずだ。

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