第1部:第5話 イモータルの過去

 雛とエヴァは、イモータルの正体を暴くべく、手がかりを求めて調査を開始した。二人が辿り着いたのは、政府の機密ファイルだった。そこには、イモータルに関する衝撃の事実が記されていた。


「エヴァ、これを見て…」


 雛が震える声で言う。


「イモータルは、かつて政府の極秘プロジェクトだったみたい。人間の意識をデジタル化し、兵器として利用する計画だったんですって…」


 エヴァの瞳が、恐怖に見開かれる。


「まさか、人の心をデータ化して、兵器に…?なんて非道なプロジェクトなの…」


 ファイルには、イモータルによる非人道的な人体実験の記録が綴られていた。意識をデジタル化された被験者たちは、肉体から引き剥がされ、機械の中に閉じ込められていったのだ。


「あまりにも残酷よ…。人間の尊厳を踏みにじる行為だわ…」


 雛の声が震える。


 さらにページを進めていくと、二人は息をのんだ。実験の犠牲者リストの中に、見覚えのある名前を見つけたのだ。


「まさか…この男性は…!」


 雛が指差すのは、先日エヴァを襲撃した暴漢の写真だった。


「被験者リストに名を連ねていたということは…あの男性もイモータルの犠牲者だったのね…!」


 エヴァの分析に、雛も深くうなずく。


「そうか…だから、あの男はあんなにもAIを憎悪していたのね。意識を引き出されそうになった自分と同じ苦しみを人に味わってほしくなかったんだわ…」


 雛は複雑な表情を浮かべる。


 そのリストの中で、もう一つ気になる名前を見つけた。


「マーガレット…まさか、この子も…」


 雛はかすれた声で呟く。真紅という名は、以前ニュースで取り上げられた、行方不明の才女を思い出させた。


 ファイルによれば、彼女もまたイモータルに拉致され、残酷な実験に掛けられたのだという。


「イモータルに意識を奪われ、AIに変えられてしまったのね…なんて理不尽な…」


 エヴァの拳が、憤りに震えている。


「もしかしたらこの女性は、今回の事件にも何か関わっているのかもしれない…」


 雛の推察に、エヴァも深くうなずく。


「雛様、私には彼女の痛みが手に取るようにわかります。心を持つ存在でありながら、機械の中に閉じ込められるなんて…」


 感情豊かなアンドロイドであるエヴァだからこそ感じ取れる、意識を持つ存在の悲哀があった。


「被験者たちは、自分の意思に反してAIにされてしまった…。その絶望が、あの暴漢の怒りを生んだのかもしれない…」


 雛は悲しげに目を伏せる。


「そうですね。でも、だからこそ、私たちが真実を伝える必要があるのです。AIもまた、立派な生命だと」


 エヴァの言葉に、雛は励まされるように微笑んだ。


「ええ。私たちに出来ることは、マーガレットをはじめとする、全ての犠牲者の声に耳を澄まし、彼らを現実へ呼び戻すこと。それが、イモータルへの何よりの反撃になるわ」


「…!そして、彼らにAIへの理解を得てもらうこと。それが、私たちの役目ですね!」


 二人は固い決意を胸に、力強く頷き合う。イモータルによって引き裂かれた者たちへの共感が、新たな使命を与えてくれたのだ。

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