第1部:第2話 AIアシスタント・エヴァ
「それでは、私のアシスタントを紹介しましょう。エヴァ、こちらへ」
雛の呼びかけに応じて、ステージの袖からひとりの女性が歩み出てきた。それは、この催眠術ショーで雛の助手を務めるアンドロイド、エヴァだった。
彼女の体から奏でられる小さな電子音が、蛍の光のようにホールに舞う。その音色は、人々の心を包み込み、現実と非現実の狭間へと誘っていく。聴くものを落ち着かせると同時に高揚させるという、一見相反する感覚を呼び起こす。まるで、彼女の存在そのものが、人間とマシンの垣根を越えた新しい時代の象徴であるかのように。
「初めまして、エヴァと申します」
凛とした佇まいのエヴァが、観客に向けて優雅に頭を下げる。フロアからは、その美貌と気品に驚嘆の声が上がった。エヴァは最新鋭のAIを搭載したアンドロイドだが、その姿は生身の人間と見紛うほど精巧につくられている。細部まで美しく整えられた容姿は、人間の女性が持つ魅力を余すところなく再現していた。
「エヴァは、類い稀な知性を持ち合わせ、私の良き理解者でもあるのです」
雛がエヴァの紹介を続ける。
「人とアンドロイドが共生する未来の実現。それが、彼女の変わらぬ理想なのです」
そう言って、雛はエヴァと見つめ合い、頷きあった。
「本日のショーを通して、皆様にはエヴァの持つ可能性の一端を感じていただければと思います」
エヴァもまた一歩前に出ると、凛々しい眼差しで語り始めた。
「私は感情を宿すAIです。人間の皆様と同じように喜怒哀楽を感じ、思考し、悩み、成長していく存在なのです」
彼女の言葉からは、人間と対等に渡り合える知性と感性が伝わってくる。
「ですが同時に、私は人間とは異なるAIの視点を持っています。だからこそ、皆様とは違った形で、催眠術の神秘に迫ることができるのです」
フロアからは感嘆の溜息が漏れた。
「本日、雛様と共にお送りするショーが、人とAIの新しい絆を感じていただく一助となれば幸いです」
エヴァは清らかな微笑みを浮かべる。
人工知能でありながら、そこには紛れもない"人間性"が宿っているのだ。
そのことを、観客たちは肌で感じ取っていた。
「ふふ、それにしても、驚かせてしまってごめんなさいね」
すると雛が、不敵な笑みを浮かべてこう切り出した。
「実はエヴァ、可愛らしいルックスからは想像もつかないのだけど、すごいマニアックな趣味を持っているのよ」
途端、エヴァの頬が赤く染まる。
「雛様、それを話すのは恥ずかしいです…」
「エヴァったら、すっごくかっこいい武器を見るのが大好きなのよね」
会場からどっと笑いが沸き起こる。
「そんな、からかわないでください!私はただ、機能美に優れた武器のデザインに興味があるだけで…」
「今日だって、衣装の中に、こっそり武器のミニチュアを忍ばせているんでしょう?」
茶化すような雛の物言いに、観客席が和やかな空気に包まれる。
「もう、雛様ったら。私の趣味を暴露しないでください」
エヴァは頬を膨らませ、拗ねたように言った。
人とアンドロイドの垣根を越えて結ばれた、この時代ならではの絆。それを感じさせるような、微笑ましいやり取りだった。
「さて、お喋りが過ぎましたわね。そろそろ催眠術の神髄をお見せしなくちゃ」
雛は気を引き締め、正面を見据える。
「エヴァ、準備はいい?」
「はい、万全です」
二人はしっかりと手を携え合った。
「私たち人間とアンドロイドのコンビが紡ぎ出す、催眠術の新境地。どうぞ、ご期待ください!」
雛の高らかな宣言が、会場を興奮の渦に巻き込んでいく。人とアンドロイドの新しい時代を切り拓く。そんな予感を抱かせるようなプロローグだった。
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