晴れのち歪んだ空

鈴音

びぃどろ


 小鳥の鳴き声が、優しく空へ消えてく昼下がり。することも無く、ふらふらと川沿いを散歩していた。

 昨日の夜に降った雨のせいで濁った川は、少し嫌な匂いがしたが、川から離れれば、心地よい草の香りが柔らかな土の感触と共にやってくる。

 しばらく歩いていると、コンクリートで舗装された道と合流し、黒く湿った地面のひび割れが、冷たい足音を反射し、響かせてくる。

 さっきまでの、どこかさっぱりした気分も消え去り、なんだか残念な気分になったが、それはそれとして硬い足音も、なかなかどうして風情があると、小さなため息といっしょに歩き始めた。

 ごうごうと川は流れ、小鳥が楽しげに歌っている、気持ちのいい昼下がりなのに、人の影はどこにも無い。もったいないなと、こぼれた感想に、何様だと一人苦笑していると、川に架かる橋が遠くに見えた。

 本当に、見えただけだったのに、やけに惹き込まれる。こういった時の自分の勘は、やけに当たる。きっとなにか、素敵なものがあるのだろうと、近づいてみることにした。

 すると、川の音にかき消されていた音が、だんだんと聴こえてくる。それは、誰かの歌声。

 近づくほどに、その穏やかで、優しい歌声がよく聴こえてくる。その声に誘われるように、歩を進めると、何かを踏んで転びそうになった。

 びっくりして足元を見ると、ラムネの瓶に入っているような、ほんのり青みがかったビー玉が一つ、転がっていた。

 拾い上げ、顔を上げると、声の主の方向に、ビー玉はいくつも転がっていた。それらを踏まないよう慎重に歩きながら、近づいていくと、一人の女性が目を瞑って、楽しげに歌っていた。

「――びぃどろ越しの世界を見上げ 小鳥のさえずりに揃えて歌いましょ

 はたしてあなたが自由の身であろうがなかろうが 歌声はただ 風に乗ってどこかへ去っていこう」 

 手に持つビー玉に、転がるびぃどろに空は映って透き通る。

 吹き抜ける生ぬるい風は彼女の声をよく通し、穏やかに、緩く時間が過ぎていった。

 しばらく聴き惚れていると、歌声の主に声をかけられる。

「ご一緒に、どうですか?」

 にっこり微笑む彼女の手の中のびぃどろは、青い空を歪んで映していた。

 私は、彼女の素敵な提案を断れず、ビー玉を手に、ご一緒することを決め、穏やかな晴れの日の昼下がり。ビー玉越しの歪んだ世界を、共に歌うのだった。

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晴れのち歪んだ空 鈴音 @mesolem

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