超人類

千葉Gori

第1話 11パーセント

皆さんは脳の10パーセント神話というものを聞いたことがあるだろうか。

「ほとんど、あるいはすべての人間は脳の10%かそれ以下の割合しか使っていない」という長く語り継がれている都市伝説である。知っている人は知っている。昔はそのくらいの説であった。だが2060年、発展した化学技術により科学者たちは、この説は真実だという結論に至った。この真実は世界を大きく揺るがし、学校の教科書には必ずのるような説になり、全世界の人々が知る常用知識となった。だが2070年、その人間の脳を11パーセント以上使用する者達が現れるのだった。

その者たちを超人類と呼ぶのなら、この物語はその超人類の戦いの物語である。


そんなある日、高校1年生のごく一般的な少年が雷に打たれたのだった。

「キーンコーンカーンコーン」

「おーい、新之、今日はさすがに電車だろ。一緒に帰ろうぜ」

「なめんなよ古乃寺。俺は雨の日も風の日もどんな日だって自転車通学だ」

「はっ、お前はやっぱり変わってんな」

「じゃ、そろそろ行くわ。また明日」

「おう、またな」

そうして、これから雷に打たれることとなる新之人は梅雨時期の豪雨の中、自転車をこぎだしたのだ。


今日は、すさまじい豪雨だな。雨なのに蒸し暑いし最悪だ。新之人は暑さに弱いのだった。寒さは着こなし次第でどうとでもなる。だが2070年、自然破壊の限りを尽くし、都市の発展を優先した日本はとてつもなく暑く、暑さというものはどうしようもないため、さすがの新之人も弱いのだ。

なぜ先人たちは未来の俺らのことを考えなかったのかと、新之人はこの時期いつも考え、怒りを覚える。

「それにしても、本当に今日の雨はすごいな。急ぐか」

そうして新之人は家に向かって急いでこぐ。そうしてギアを最大にして力強くこごうとしたその時だった。

ピカッ。

ほんの一瞬、視界には白色以外の何も映らなかった。閃光弾をを投げられた時の視界はこんな感じなのだろうか。ほんの一瞬、そして。

それとほぼ同時。コンマ数秒の世界だろう。

ドオオオオオオオオン。

新之人、雷に直撃。

雷音、辺り一帯に強く鳴り響く、そして雷音によって全世界に超人類という存在をもとどろかせたのだ。


「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」

ああ、いったい何があったんだ。辺り一面が光って、それと同時に。俺は雷に直撃したのか。どんな確率なのだろうか。ああ、体が動かない。ここは病室か。全身が熱い。おそらく肌が焼け焦げたんだろう。ああ、辛い。全身がこんなにもつらいのに頭だけはよく回る。思考能力はいかれなかったのだろう。いつから俺はこんなにも冷静な人間になってしまったのだろうか。親が死んだときも冷静になんて、個人的にはちょっとヤダな。

ただ、こんな状態でも冗談を言えるとは、とてつもなく冷静だな俺は。そんなことを考えながら、再び目を閉じる。あまり寝れないな。とりあえず看護師でも呼ぶか。

そう思ったとき。

「ガラガラガラ」

病室のドアが開いた。

ドアの方に視線を向けると、そこには新之人の祖父がいた。

「おお、起きたか。ん、起きた?雷に直撃したにもかかわらず、起きた。おお、これはわしの生涯の中でも一番の奇跡じゃな。おーい、看護師さんよ、わしの孫が起きたぞー」

そうして新之人の祖父、新之甚之助は大声で看護師を呼ぶ。


そして俺は色々な確認診察を受けて、1週間の入院が決まった。

それと言って体に異常はきたしていないらしい。医師も奇跡だと言っていた。

俺も奇跡だと思う。雷に打たれて何もない、変わったところと言えば髪色が白髪になったということだけ。


そして俺の病院生活が始まり、その期間俺は読書をし続けた。なぜ読書をしようと思ったか。俺でもあんまり理解できないが雷に打てれたせいか頭の中がクリーンになって本の内容がスラスラわかったからだ。理解できると読書というのも案外楽しい。

最初はsf小説から始まったが、最後には新書なども読めるようになり、その1週間で合計111冊の本を読んだ。とんでもない数を読んだなと自分でも思う。


そして俺は退院した。

「よっす」

俺はいつもの様にあいさつした。

「よっす。ってよっすじゃねえよ。お前雷に打たれたんだろ。もう学校なんてきていいのかよ」

「おう、なんか大丈夫だったは。白髪になったけど」

「お前、実はとんでもなく体が丈夫なんじゃあねえか」

「おう、丈夫らしいな。そういえばよ、俺入院期間中に本111冊読んでよ、とんでもねえ知識人になっちまったんだよな」

「111冊、お前そんな頭柔らかかったか?ってか世界のどんな頭のいい奴でも111冊も読めねえぜ」

「だよなあ、俺頭おかしくなっちまったのかなあ」

そう彼は頭をおかしくしていた、だが普通の高校生である新之人はまだそれを理解していない。すぐ理解することになる運命にあるのだが。


そして放課後。

「なあ、新之。今日の放課後はどうする」

「あー、うちでゲームでもするか」

「いいな、んじゃそれで」

新之の家と古乃寺の家の方面は同じなため、2人はよく放課後に遊んでいた。

自転車の鍵を外して自転車のパドルにまたがる。

「んじゃ、行くか」

悪天じゃないは古乃寺も自転車通学だ。

「なんかお菓子でも買っていかねえか?」

「じゃあ、俺ん家の近所のコンビニにでも途中でよるか」

「トリトスうってるかな~」

「あれ旨いけどスーパーとかに行かねえと売ってねえよな」

そんな話を交えつつ20分ほどでコンビニについた。コンビニの駐輪場に自転車を置きコンビニの入り口に向かうその時だった。コンビニの横の横断歩道に1人の少女が立っていた。

彼女は誰かと一緒というわけでもないにもかかわらず、何か喋っていた。独り言か?

それにしては大きな声だ。

「何してんだ、早くいくぞ」

新之は彼女に何かを感じた。何か、ほかの人とは違う何かを。

「ちょっと先行っててくれ」

「おう、早く来いよ」

新之は何か用があるわけでもないが彼女に近づいた。

「ねえあなた、あなたにもわかるの?」

気づかれていた、別にバレてどうということでもないが。

「何のことだ」

「あっそ、けど私に近づいたということはそういうことね」

「あなた、最近なにかあった?」

少しだけ考えた。

「雷にこの前打たれたぐらいしかないな」

彼女はこちらに振り返っていった。

「あなた、今結構すっごい頭してるから気をつけた方がいいわよ。

まあ色々これからあると思うから、何か今だなって時にこの電話番号に連絡しなさい。」

そう言って彼女は電話番号を書いた紙きれを渡してきた。

「お、おう」

その紙切れを受け取り、その電話番号に目を落とし、顔を上げるともう彼女は消えていた。一体何だったのか、だがこれは夢なんかじゃない。受け取った紙切れをポケットに入れ、すぐさまコンビニに向かった。

美しい女性だった。



「あの子だったんだ、新しい覚醒者って。」

「そうらしいな、上手くつかってほしいものだな脳を11パーセント使える力を」

「奴らに目を付けられなきゃいいんだけど、大丈夫かしら」

「大丈夫に決まってんだろ、あの坊主はあいつが言ってた英雄の器じゃあねえか。」

「そうかもしれないわね、交代交代で動向を陰ながら監視しましょう」

「りょうかーい」

そして新之と同じく脳を11パーセント以上使える覚醒者、超人類の2人は闇の中に歩いて行った。


次の日。

「やあ、君、新之君だろ。よろしくー」

皆がざわつく。

「おいお前知り合いなのか、あの転校生」

まったく知らない。一体誰なんだ、あの転校生は。

そうして考えている間も謎の転校生は俺に向けて右手を振り続けている。


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