魔法のように

「じゃあ、今から”演奏”の説明をしていくね。」

眼鏡の、ザ・優等生って感じの理奈先輩は、見た目に反してパーカッションらしい。

…想像できない

「あの、なんで芽理先輩が続けて演奏の説明もしないんですか?」

「あぁ…。あの子バスクラリネットだから。まあ、やってみたらわかるよ。ごめんね。芽理がよかったかな。」

「あ、いえ、理奈先輩に教えていただけるのはとてもうれしいです。」

バスクラリネットだからって、どういうことだろう。

「じゃあ、説明をするね。」

パチンッ

理奈先輩が指を鳴らす。

いつの間にか私はペト丸を握っていた。

「…あれ、持ってきてたっけ」

「楽器はここに来るときにデータ化されて、あとは私が合図するだけで顔認証で勝手に配れるのよ。」

聞くところによると、ここでの練習には部長か副部長の許可がいるらしい。誰かが合図しないと楽器が配られないんだとか。

「えーっと、…あった。これを管のどこかにつけて。」

そういって渡されたのは、OTOと彫られた、クリップについた小さなガラス製の花。

「これ、なんですか?」

「brass flower…わかんないか。それをつけると、少し、楽器の音に特殊加工が入るんだよ。」

吹いてみて。

そう促されて、いつものようにチューニングをする。

……草原に、音が鳴り響く。

刹那、ペト丸のベルから青く輝く魚や貝殻がオーラのような光を纏って草原に流れていった。

「君は水属性か。」

「こ、これは、何なんですか?」

「これは、楽器に”戦闘用の波”を出せるようにする器具だよ。あの魚や貝殻は、君が敵とみなした者にのみ痛みを与える。ちなみに地面につく前に消えるよ。」

まだ弱っちいけどね。と理奈先輩はいうが、音で攻撃ができるなんて…

いいのかな。これが正しいのかな。

でも、

「きれい…」

私とペト丸が、こんなのを出せるなんて…。夢みたいだ。

「…ところで、水属性ってなんですか?」

「楽器で出せる波には、5つの属性がある。炎、水、草、光、闇だ。」

めっちゃ魔法みたい。ていうかこういう属性、本とか漫画とかで見たことあるし。

「理奈先輩はなんの属性なんですか?」

「私は草だよ。」

ほら。そういって理奈先輩が手をたたくと、

シャンッ

先輩の手元で、草花がはじけた。

「これはまだ序の口。パーカッションだからハンドクラップでも出るけど、ティンパニだともっとすごい。少し見てみる?」

「はい!」

やはりいつのまにか先輩の周りにティンパニが表れていた。

先輩がバチを持つ。振り上げて…

シャンッ

先輩のロールで、周りに木や花が青々と生い茂る。

ティンパニをたたくたび、鳥のさえずりが聞こえる。たたいた衝撃で草から落ちた種から、新たな芽が顔を出す。

「…ここからだよ。」

先輩のその声と同時に、演奏が激しく、強くなる。

その瞬間、先輩の背後に小さな木の芽が出るのがわかった。

演奏が終盤に近付くにつれ、大きく、太く、健やかに成長していく木。


演奏が終わるころ、先輩の背後には巨大樹がそびえたっていた。

「…これが私の限界。”慈しみの木”」

「なんですか?それ。」

「奏者のレベルが上がるにつれ、少しずつ”技”が使えるようになる。慈しみの木もその一種。こうやって触れると…」

先輩が木に触れた瞬間、先輩の髪が舞い上がった。そして…

「…先輩、顔色と髪ツヤと、目の色?が少し変わりましたね。」

先輩の顔色が幼児なみに生き生きし、なんかエンジェルリングがみっつできそうな勢いで髪ツヤがよく、目が、少し緑がかった色になっていた。

「うん。この木は触れたものを木の上限まで回復させられるんだ。私はまだやけどを治すのが精一杯なんだけど、最高点に届けば、命に危険が及ぶようなけがも治せるらしい。」

音ちゃんも、きっと使えるようになれるよ。

その言葉で私は、これからの練習へのやる気が高まった。

頑張るぞー!

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