心と美希 〈side 心〉
「…で、いろいろ聞きたいけど…どうしてここに?」
急に現れた新入生、音に、部長の心は悩まされていた。
さっきは音の持っていた楽器――トランペットに惹かれて、楽器愛とキャラと押しが強いトランペットのパートリーダーこと、美希が勝手に部室に引き入れたのだが…
(本当は、面接から本部で正当な手順を踏んでから入隊してもらうんだけどっ!?)
いつも勝手でマイペースな美希だが、何というか、本当にめんどくさいことばかり拾ってくる。そのくせ本人はのぺーっとして、私にくっついてばかりだ。
…正直ちょっと――いや、だいぶ疲れる。
まあ、そんな話は置いといて。
「ここなら、あいつらを…倒せるんでしょ?」
「さっきから気になってたけど、あいつって?」
「ペト丸を殺した…教育委員会のやつら。」
ペト丸!?何その名前!?え、本名?それともあだ名?待ってめっちゃ気になる…。
「ええっと…ご兄弟か何か?」
「あ、いえ…」
バンッ!!!!!
盛大な音を立ててドアを開けた誰かさん。いやまあ、誰かはわかるんだけどさあ…。
「ぶちょー!!」
…うん、だよね。美希だよね。知ってた。
「…美希ちゃん、入ってこないでねって言わなかったっけ?」
「えーっと、そうだっけ?忘れたー!それよりさ、音ちゃん…だっけ?その子、ペト丸っていうの?なかなかいい名前じゃん!」
その子、と言って美希が目を向けていたのは、管の曲がったトランペットだ。
「なんで、わかるの…ですか?」
「えー、楽器って名前つけるもんでしょ?ちなみにこの子はペト太郎!かっこいいでしょー!」
(まぁた美希がなんか語ろうとしてるよ。まったくもう…)
「こら美希、まだ練習時間でしょ?後輩もいるんだから、早く戻りなさい。」
「はーい。」
「次来たら金輪際私の練習教室出禁にするからね」
「えっ…は、はい!」
慌ただしく去っていく美希を見送ったあと、改めて音に向かい合う。
「で、音ちゃん?ペト丸…楽器を壊されたってことかな。でも、どうして?持っているだけなら何も処罰されないでしょう?」
「私は、ずっとペト丸と一緒だったんです。毎日二人で何か奏でてました。それをいきなりやめろだなんて…無理に決まってるんです。だから吹き続けました。そしたらある日、あれは春休み…?塾から帰ったら、楽器が曲げられてて…窓から、教育委員会の車が見えました。絶対あいつらです!私のペト丸をこんな風にしたのは…」
まあ、十中八九…いや、十中十は教育委員会でしょうね。
「そりゃ堂々と違反したらそうなるよ…」
ぼそっとつぶやいたのが聞こえてしまったみたいで、
「じゃあ、何もするなって言うんですか?ペト丸も諦めろって言うんですか?」
急に泣き出しそうな顔で言う音。
「…はぁ。それが嫌だからここに来たんでしょう?大丈夫。ここなら、なんでもできるから。」
(とりあえず本部に連絡、顧問には…言うけど、嫌味言われそうだなー。)
BrassBand各部隊の本拠地である学校には、それぞれ教師でありながらBrassBandの手助けをする存在がいる。彼らはConductorと呼ばれ、隊員の活動を支援している。なお、隊員は“顧問”のほうが馴染みがあるため、正式な役職名を呼ぶ者はごく少数だ。
(はあ…憂鬱だ。)
ちなみに、BrassBandの中で一番過酷とされる役職は部長。顧問と隊員の板挟みになりながら本部と連絡を取る、とてつもなくめんどくさく、一番理不尽に怒られやすい役職である。…かわいそ。
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