第20話 調査隊

それほどまでに、今の彼には、得体の知れない恐ろしさを感じずにはいられなかったんです。

その証拠に、今もなお、足が震えて止まらない状態で、

立っていることさえ困難な状況に陥ってしまっているほどなんです。

こんな状態で、これからどうなってしまうんだろうと考えるだけで、不安になります。

できることなら、今すぐにでも逃げ出したい気分ですけど、

そういうわけにもいかず、諦めるしかないのかなとも思います。

それに、たとえ諦めたところで、どうにもならないことだけはわかっていますので、

どのみち、逃げ道なんて存在しないも同然なんですよねぇ、はぁ。

思わず溜息が出てしまいますが、今さら落ち込んでいても仕方ありませんし、

気を取り直していきましょう。

ということで、とりあえずは前向きに考えるようにしました。

そうすれば少しは楽になれるのではないかと思ったからです。

しかし、そう簡単に割り切れるものでもないらしく、

頭の中であれこれ考えているうちに気分が沈んでいくばかりでした。

そんな私に構うことなく彼は続けます。

「ふんっ、まあよい、今は見逃してやるとしよう」

そう言いながら踵を返すとそのまま歩き去って行きました。

その後ろ姿を見送りながら、ほっと胸を撫で下ろすと同時に、

緊張から解放された反動からか、体中の力という力が抜けていく感覚に襲われてしまい、

その場に座り込んでしまった私は、しばらくの間立ち上がることができずにいたのです。

もうダメかもと思っていたその時だった。

不意に背後から聞こえてきた声に振り向くと、そこには見知らぬ女性が立っていたのだ。

彼女は、微笑みながらこちらに近づいてくると声をかけてきた。

どうやら私のことを心配してくれているらしいことがわかったので素直にお礼を述べることにする。

そうすると今度は自己紹介を始めた彼女に対し私も名乗り返すことになったのだが、

その直後にいきなり抱きしめられてしまった。

驚いて硬直していると耳元で囁かれた言葉にドキッとする。

そこでようやく気づいたのだがこの女性はまさか!?

そう思った瞬間だった。

「あら、可愛い反応ね、ますます気に入ったわ」

そう言って微笑む彼女の顔はとても綺麗で見惚れてしまうほどだった。

そんな彼女を見ていると胸がドキドキしてくるのがわかった。

「ふふ、照れてる顔も素敵よ」

と言いながら頬を撫でてくる彼女の手は柔らかく温かい感触があった。

それだけで幸せな気分になることができた。

そして、次の瞬間には唇を奪われていたのだった。

「んっ!?」

突然のことに驚きながらも抵抗しようとするものの、

しっかりと押さえつけられているせいで身動きが取れなかった。

その間にも口内に侵入してきた舌が絡みついてきて、

唾液を流し込まれるたびに体が熱くなっていくのを感じた。

次第に意識が朦朧としてきて何も考えられなくなるほどに

蕩けさせられた頃になってようやく解放してくれた。

荒い呼吸を繰り返えす中で、ぼんやりとした視界の中で見えたのは、妖艶な雰囲気を纏った美女の姿だ。

年齢は20代後半といったところだろうか、スタイルもよく顔立ちもかなり整っているように見える。

服装はかなり露出度が高く、胸元が大きく開いたドレスを身につけていて、そこから覗く谷間は非常に魅力的だった。

腰まで伸びた長い金髪をかき上げる仕草からは大人の色気が溢れ出ているようで、見ているだけで興奮してしまうほどだ。

「はじめまして、あなたが噂の女性かしら?」

そう言われてハッと我に返った私は慌てて姿勢を整え、深々と頭を下げると挨拶をした。

それに対して、相手は満足げに微笑んでいたように見えた。

だが、すぐに真剣な表情に戻ると、本題を切り出してきた。

なんでも、最近この辺りでは魔物の動きが活発になっているらしく、

その原因を突き止めるために調査隊を派遣することになったのだという。

それで、私が選ばれたというわけだそうだ。

正直、私には荷が重いと思うのだが、断るわけにはいかないようだ。

渋々了承することにしたものの、内心不安でいっぱいだった。

「大丈夫よ、貴女は複数スキルの所持者で凄く強いのでしょ?」

「いえ、そんなことはありませんよ、まだまだ未熟者ですので……」

謙遜しながらも、内心では複雑な思いを抱いていた。

何しろ、今までずっと隠してきた秘密を打ち明けなければならないのだから当然だ。

しかも、それを受け入れてくれるかどうかもわからない状況で、

とてもじゃないが安心できなかったのである。

それでも、ここで引き下がるわけにはいかなかったため、

勇気を振り絞り、全てを打ち明けることにした。

その結果、予想通りと言うべきか、案の定と言うべきか、

やはりと言うべきか、 当然ながら、信じてもらえるはずもなく、

むしろ馬鹿にされたような態度を取られてしまった。

そのことに苛立ちを覚えたものの、

これ以上揉め事を起こしたくないという思いもあり、ぐっと堪えるしかなかった。

その後、詳しい説明を受けたところ、

どうやら今回の任務というのは、とある遺跡の調査だということが判明した。

何でも、そこに眠る秘宝を手に入れることができれば、莫大な富を得ることができると言われているらしい。

それを聞いた時、私の心の中には、ある一つの考えが浮かんできた。

つまり、これはチャンスだと思ったわけである。

幸いにも、今の私には、強力な力を持っている。

これを使えば、きっと成功するはずだと確信したのである。

早速、行動に移るべく準備に取りかかることにした。

まずは、必要なものを集めなければと思い、街へと繰り出すことにしたのだ。

そうして、必要な物を買い揃えた後、いよいよ出発の時を迎えた。

目的地までは徒歩で行くつもりだ。

その方が、より深く調べられるだろうと思ったからである。

道中は特に何事もなく順調に進んでいった。

途中、何度か休憩を挟みつつも、着実に歩を進めていった結果、

予定よりもかなり早く到着することができた。

そこは、鬱蒼とした森の中にあり、周囲には人の気配が全く感じられない場所だった。

周囲に生えている木々の高さはそれほど高くはなく、

せいぜい3メートル程度といったところだろうか。

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