第17話 彼との一時
他の人たちは、既に逃げ去ったようで、姿が見当たらない。
おそらく、巻き込まれないように逃げたのだろう、賢明な判断だと思う。
それにしても、どうしたものか、いくら最強の存在である私といえども、
この男相手に勝てるかどうか、微妙なところだ。
そこで、ひとまず、時間稼ぎをすることに決めた。
少しでも時間を稼いで、援軍が来るのを待つ作戦だ。
そうと決まれば、早速行動開始だ、まずは、相手の様子を窺いながら、ゆっくりと後退を始めた。
それに合わせて、向こうも近づいてくる、よし、いい感じだ、
このままいけば、上手く行きそう、と思っていたのだが、残念ながら、そんなに甘くはなかったようだ。
突如として、目の前に現れたかと思うと、強烈な一撃を放ってきた。
とっさに身を捻って躱そうとするものの、完全には避けきれず、右腕に当たってしまった。
鋭い痛みが走ると同時に、大量の血飛沫が上がるのが見えた。
その光景を見た瞬間、血の気が引いていくのが分かった。
同時に、全身から力が抜け落ちていく感覚に襲われる、
恐らく、貧血を起こしているのだろう、このままだと倒れかねない、
とにかく、一度、距離を取らないと、そう思い、
その場を離れようとしたのだが、足が縺れて転んでしまった。
慌てて起き上がろうとするものの、上手くいかない、
その間にも、どんどん距離が縮まっていく、このままではまずい、そう思った時だった。
奇跡的に、すぐ近くに落ちていた石を掴むことができた。
それを手に取るなり、即座に投擲、見事命中した。
さすが、私、やれば出来る子ね、と思いながら、急いで立ち上がり、走り出そうとした。
その瞬間、右足首に激痛が走った、見ると、膝下あたりが大きく切り裂かれているではないか、
いつの間にやられたのか、全く気づかなかった。
それほどまでに、余裕がなかったということなのだろう、
しかし、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
歯を食い縛り、なんとか前へ進もうとするものの、体が言うことを聞いてくれない。
まるで鉛のように重く感じる、もしかしたら、血を流しすぎたせいなのかもしれない。
意識が朦朧とする、今にも倒れそうだ、だが、ここで倒れるわけにはいかない、
最後の力を振り絞って立ち上がった。
そのまま、一歩ずつ前進を始める、目指す場所は、ただ一つ、出口のみ、
それ以外は何も見えていない、ただひたすら、歩き続けた。
どのくらいの時間が経過しただろうか、やっとのことで、外へ出ることに成功した。
そうすると、そこに立っていたのは、あの男、黒ずくめの男の姿だった。
そいつは、こちらを見下ろし、不敵な笑みを浮かべている。
気味が悪い、背筋が凍るような感覚を覚えながらも、冷静に状況を分析しようとした。
まず、分かっていることは、一つだけだ、この状況は非常にまずいということ、
もし、私がここで倒れてしまえば、間違いなく命を落とすことになるだろう。
それくらい危険な状況だということ、それだけは理解できた。
だからこそ、一刻も早くこの場を離れなければならない、その一心で、ひたすら走り続けた。
しばらく進んだところで、後ろを振り返ってみる、すると、奴は追ってきていないようだった。
そのことに安堵しつつ、近くにあった洞窟の中へと潜り込んだ。
幸い、中は比較的広く、隠れるには最適の場所だったようだ。
ここなら、しばらくの間は大丈夫だろう、そう思った途端、どっと疲れが出てきた。
その場に座り込み、大きく息を吐く、心臓の音がうるさいくらいに聞こえてくる。
落ち着くように自分に言い聞かせ、深呼吸を繰り返した。
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したところで、改めて、今の状況を確認してみた。
(さてと、これからどうしようかな?)
私は考えを巡らせてみたけれど、特に良い案が思い浮かばなかった為、
とりあえず考えるのをやめて、眠ることにした。
その後、私はそこから逃げるように駆け足でグレオスハルト様の所まで行きましたのです。
そうすると、なぜか、急に不安感に襲われてしまい、居ても立っても居られなくなり、
つい、衝動的に動いてしまい、気づけば、部屋の前で立ち尽くしていました。
どうしよう、勢いで来ちゃったけど、今更戻ることもできないし、
かといって、このままずっとここに居るわけにも行かないよね、
やっぱり、ここは覚悟を決めて行くしかないのかな、
よし、行こう! 心の中で気合を入れ直し、扉を開きます。
中に入ると、そこには、いつも通り、優しい笑顔を浮かべたグレオスハルト様がいました。
その姿を見た瞬間、安心感からか、涙が出てきました。
それを見たグレオスハルト様は、驚いた様子でしたが、
すぐに笑顔に戻り、優しく抱きしめてくれました。
それが嬉しくて、ますます泣いてしまう私でした。
しばらくすると、ようやく落ち着いたので、顔を上げ、涙を拭いますと、
今度は、逆に抱きしめられました。
「大丈夫か?」
心配そうに声をかけられ、思わずドキッとしてしまいます。
顔が熱いです、きっと真っ赤になっていることでしょう、
恥ずかしくて、俯いてしまいます。
ですが、それも束の間、再び顔を上げると、
今度は、唇に柔らかいものが触れていました。
一瞬、何が起こったのか分からず、混乱してしまいましたが、すぐに理解しました。
キスされたのだと、理解した途端に、身体中の血が沸騰したように熱くなります。
心臓がバクバク鳴っているのが自分でも分かるほどです。
顔も火が出るんじゃないかと思えるほど熱くなってきました。
多分、今の私の顔は、リンゴみたいに真っ赤なんだろうな、などと呑気なことを考えています。
そんな状態のまま、しばらくの間、呆然としていると、もう一度、キスされました。
それも、さっきよりも、少しだけ長く、そして、深くなっていき、段々息が苦しくなってきます。
さすがに苦しいと感じたので、身を捩らせて逃れようとするのですが、
いつの間にか、頭の後ろを押さえられていて、逃げることができません。
それどころか、もう片方の手で、背中をがっちりホールドされています。
逃げられないことを悟った私は、諦めて、受け入れようと思いました。
だって、私も本当は望んでいたことですから、むしろ嬉しいです。
これからもたくさんして下さいね、それで、私のこと、いっぱい可愛がってください。
ああ、幸せだなぁ、ずっとこのままが良いなぁ、 などと考えていた時、唇が離れてしまいました。
もう終わりですか、 名残惜しげに見つめていたのですが、
次の瞬間、信じられない光景を目にしました。
「ちょっ、待ってください!」
慌てる私を無視して、強引に押し倒されてしまいました。
あまりの衝撃に耐え切れず、悲鳴を漏らしてしまいます。
恐怖心に苛まれたのか、全身がガタガタ震え出して止まりません。
そんな状態の私に、グレオスハルト様は覆い被さるように迫ってくるではありませんか、
これはもうダメかもしれません、半ば諦めかけたその時、予想外の事が起こりました。
いきなり、部屋のドアが開いたのです。
まさか誰かが入ってくるとは夢にも思ってなかったので、驚愕のあまり固まってしまいました。
恐る恐る振り向くと、そこに立っていたのは、何と、妹の姿がありました。
驚いて言葉が出ない私を尻目に、妹はゆっくりと近付いてきて、そのまま抱きついてきました。
「お姉ちゃん、会いたかったよぉ〜」
泣きながら、そう訴えかけてくる姿を見て、胸が締めつけられる思いがしました。
どうやら、彼女も私のことを心配して、わざわざ来てくれたようです。
嬉しさのあまり、思わず涙ぐんでしまいました。
そんな私たちの様子を、グレオスハルト様は、複雑な表情で見つめていました。
しばらく経って、ようやく落ち着いた私たちは、お互いのことを語り合いました。
といっても、ほとんど妹が喋ってるだけなんですけど、
それでも、楽しいひとときを過ごすことができました。
一通り話し終えた後、グレオスハルト様に向かって、頭を下げました。
ありがとうございます、妹と一緒にいてくださって、とても助かりました。
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