第16話 彼と共闘
やはり、あのダメージが大きかったせいだろうか、
あるいは、一時的な記憶障害を引き起こしているのかもしれない。
いずれにせよ、これ以上無理強いさせるわけにもいかないので、今は休ませることにした。
その後も順調に回復していき、遂に退院することになった。
もちろん、私が付き添う形で付き添い、一緒に帰ることにした。
途中で寄り道をして、いろんな場所を見て回るうちに、
すっかり夜になってしまったけど、不思議と楽しかったな、
こんな風に誰かと遊んだりすることなんて、今までほとんどなかったから、
余計に新鮮だったのかもしれない。
もしかすると、彼も同じ気持ちだったのかな、
だとしたら嬉しいな、なんて思ったりしていた。
そうして、その日は幕を閉じた。
次の日からも、私達は、毎日のように二人で出かけたりした。
時には、二人だけの思い出を作ったりもした。
そのせいか、前よりも親密になった気がする。
気のせいかもしれないけど、でも、確実に変化はあったと思う。
このまま行けば、きっと、彼と結ばれることができる。
そう思っていたのだが、そんなある日、事件は起きた。
なんと、彼から別れを告げられたのである。
理由は、他に好きな人ができたというもの、
それを聞いた時、頭が真っ白になった。
何を言っているのか理解できなかったからだ。
嘘だ、そんなことあるはずがない、何かの間違いだ、
そう自分に言い聞かせようとしたが、無駄だった。
現実を受け入れるしかなかったのである。
こうして、私の恋は終わった。
いや、始まる前に終わってしまったと言った方が正しいだろう。
あれから、しばらくの間、落ち込んでいたが、
いつまでも落ち込んでいても仕方がないと思い、気持ちを切り替えて、新しい恋を探すことにした。
とはいえ、そう簡単に見つかるはずもなく、時間だけが過ぎていくばかりだった。
そんなある日、気分転換も兼ねて、街を散策していると、偶然、彼を見かけた。
隣には、見知らぬ女性の姿があった。
仲睦まじく、楽しそうに話している様子を見ていると、胸が締め付けられるような気持ちになった。
結局、声をかけることができず、その場を後にした。
その後も、何度も同じような場面に遭遇したが、その度に、逃げるように立ち去った。
そんなことを繰り返していくうちに、どんどん自信をなくしていった。
そして、ついに限界を迎えた私は、思い切って、彼に直接尋ねることにした。
何故、別れを選んだのか、その理由を聞きたかったからである。
そうすると、意外な答えが返ってきた。
実は、以前から、彼女の方から好意を寄せられていたらしい。
最初は、その気持ちに応えるつもりはなかったそうだが、
何度もアプローチを受け続けるうちに、 だんだん絆されていき、
今では、真剣に交際を考えるようになったのだという。
つまり、最初から、私のことなど眼中になかったということだ。
その事実を知った瞬間、目の前が真っ暗になったような気がした。
それから、どうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
気づいた時には、自分の部屋にいた。
ベッドの上で横になり、天井を見つめているうちに、自然と涙が溢れ出てきた。
悲しい、悔しい、憎い、様々な感情が入り乱れ、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
しばらくして、少し落ち着いてきた頃、ふと思ったことがある。
そういえば、あの時、助けてくれた人は誰だったのだろう?
確か、黒いマントに身を包んだ人だったような気がするんだけど、
思い出せない、一体、誰なんだろう?
疑問を抱きつつも、それ以上考えるのをやめ、眠りにつくことにした。
翌日、いつものように私はモンスター退治の依頼をこなしていた。
今日の相手は、ゴブリンの群れである。
奴らは、群れを成して行動する習性があり、
常に集団行動を心がけているため、単独行動は滅多にしないらしい。
その為、こちらとしては、非常に厄介な相手なのである。
まあ、所詮、雑魚に過ぎないんだけど、 そんなことを考えながら、
向かって行くと、案の定、お出迎えしてくれたみたい。
数はざっと20体くらいかしら、相変わらず、気持ち悪い姿してるわね、
そう思いながら、剣を構える。
それと同時に、向こうも一斉に襲い掛かってきた。
それに対して、こちらも応戦する形で、迎え撃った。
まずは、手近にいた奴を切り伏せ、その後、近くにいた数体を同様に撃破していく。
ある程度、数が減ったところで、一旦、距離を取った。
さすがに、一度に全部を相手にするのは厳しいから、
息を整えつつ、次の標的を定めようとする。
だが、そう簡単にはいかなかった。
なぜなら、今度は、後方から援護射撃を受けたからである。
振り返ると、そこには、見知った顔があった。
それは、かつて共に戦った仲間、カレルさんであった。
彼は、弓を構えながら、こちらに話しかけてきた。
曰く、助けに来たとのこと、 なんでここにいるんだろう、と思っていると、
それを察したのか、説明してくれた。
なんでも、最近、この辺りで、大規模な魔物狩りが行われているらしく、
その影響で、普段以上に、危険度が増しているのだという。
なので、一人では危険だと判断し、駆けつけてくれたらしい。
ありがたい話だ、そう思った私は、素直に感謝の言葉を述べた。
そうすると、彼は照れくさそうにしながら、気にするなと言って、微笑んでくれた。
その様子を見ていたら、なんだか、胸の奥が熱くなるのを感じた。
なんだろう、この感じ、もしかして、これが恋ってやつなのかな、
でも、私には、既に心に決めた人がいる。
その人のことを裏切ることはできない、絶対にできない。
だから、この想いは、心の奥底にしまっておこう、そう決意したのだった。
それから、しばらくの間、共闘しながら、迫り来る敵を撃退していった。
途中、何度か危ない場面もあったけど、お互いに助け合いながら、
どうにかこうにか乗り切ることができた。
戦いが終わった後、改めて、お礼を言った。
彼は、大したことはしていないと言っていたけど、
そんなことはない、本当に助かった、心から感謝している。
そう伝えると、照れ臭いのか、そっぽを向かれてしまった。
可愛いところもあるんだな、なんて思っていると、不意に声をかけられた。
振り向くと、そこには、一人の女性がいた。
年齢は二十歳前後といったところだろうか、整った顔立ちをしており、
スタイルも良い、おまけに、服装もオシャレなものを着用していて、
いかにもお嬢様といった感じだ。
そんな彼女の名前は、クラリス・リーベルといい、
王国の第一王子、グレオスハルト様の婚約者でもある。
そんな人が、こんな場所にいること自体、驚きなのだが、
それ以上に、様子がおかしいことに気づいた。
何だか、フラフラしていて、足元も覚束ない様子だ、
何かあったのだろうか、 心配になって、声をかけようとしたところ、突然、背後から何者かに襲われた。
咄嵯に振り返ると、そこにいたのは、漆黒の鎧に身を包んだ男だった。
その手には、禍々しいオーラを放つ剣が握られている。
間違いない、こいつは、魔剣士だ。
しかも、かなりの実力者であることは間違いない。
その証拠に、さっきから、凄まじい殺気を放っている。
明らかに、私をターゲットにしているみたいだ。
これは、マズイ状況だな、幸い、この場にいるのは、私とこいつだけのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます